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2005年1月28日 (金)

ルル事件 THE RUMOR

事件の発端はこの新国の発表です。
http://www.nntt.jac.go.jp/release/r392/r392.html
これだけを読むとまるで永田さんが原因で2幕版に変更になったかのような印象を受けるかもしれませんが、以下の2つの理由でたぶんそれは違います。

1)アルヴァ役は重要ではあるが、主役ではない。「ルル」の出演歌手の重要性に順位をつけるなら、1番はもちろんルル役のソプラノ。次がシェーン博士と切り裂きジャック(1、2幕でシェーン博士を歌った歌手が3幕で切り裂きジャックを演じる)のバリトン。次がルルとレズビアンの関係になるゲシュヴィッツ伯爵令嬢のメゾ・ソプラノ。その次ぐらいにシゴルヒ役のバスとアルヴァ役のテノールがきます。つまり4番手か5番手になるのです。
「ラ・ボエーム」で言ったらミミ、ロドルフォ、ムゼッタときてマルチェッロかコルリーネです。外套の歌がうまく歌えないから4幕カットなんて言っても他の主役歌手が了解するわけはないでしょう。ベルクの場合、主役が揃えば何とかなるイタリア・オペラと違って、端役まで重要でありハイレベルの歌手を揃えなければならないと言うのはあるにしても。(なお3幕版では2幕版にくらべてアルヴァの重要性は増します。)

2)難しいとは言っても、ルルと違いアルヴァ役なら、まだ代わりの歌手をみつけやすい。それこそノヴォ氏のウィーン国立歌劇場制作部長のキャリアをいかして、ヨーロッパから代役歌手を手配するのは難しくないだろうと想像します。日本人歌手で歌える人もみつかるんじゃないかと思います。なんと言っても「ルル」3幕版は一昨年、二期会が上演(日本初演)しているのですから。そうすればわざわざ版を変更しなくても歌手の入れ替えだけですむわけです。

また2幕までなら芸術的水準が保てて、3幕は保てないというのでしょうか?(そんな風に読めないこともない。)となると3幕にだけ出演する歌手が問題になりますが、出演歌手のサイトを読むと、どうも3幕出演の脇役歌手たちのアンサンブルは指揮者も感激するほど完璧に出来上がったらしいのです。(それだけに3幕だけ出演の人たちが気の毒。黙役で出演することになったようですが。)

一方、他のサイトによれば主役歌手だけ歌がまったく仕上がらず、立ち稽古に入れる状態ではないため、別室で練習主任と練習。稽古は控えの歌手がやっているという話も出てきています。

しかし仮に主役歌手が原因だったとしても、アンダー(控え)の歌手もいるし、その歌手を降ろせばすむこと、わざわざ3幕の上演をやめて、2幕版にする必要はないのでは?と、普通だったら思います。――ここに大騒動になっている原因があります。

主役歌手を降ろせない理由は、その人が某宗教団体の会員で、新国の「ルル」のチケットは2千枚以上がその宗教団体によってさばかれている。いまさら降ろすことなど不可能。そこで何とか譜読みと演技の稽古が間に合いそうな、2幕までにして上演にこぎつけるようにした、という噂が流れているのです。(ただ私は自分で取材してはいないので、その噂を確認することは出来ません。)

で、この噂は本当なのでしょうか?もしこれが真実なら、真の問題点は、当該歌手よりもむしろ新国の姿勢にありそうな気がします。キャスティングをした人は、その宗教団体の購買力をあてにして、普通ならなかなかチケットは売れそうに無い「ルル」の主役にその歌手を配役したのでしょうか?

私自身は仏教だろうとキリスト教だろうと宗教にはさほど興味がないし、別に人が何を信じようと勝手だと思います。歌手だってどんな裏事情があってもオファーがきたら受けるでしょう。しかし数十億の税金が投入されている組織なのですから、もし宗教団体と癒着した配役が行われているのなら、やはりそれは問題だと思います。――癒着しているわけではない、チケットを売りさばくための深慮遠謀である、という言い逃れも出来るかもしれませんが。

なお上記の噂について私自身が裏を取ってはいないので、固有名詞で書くことはせず、あえて主役歌手、某宗教団体というにとどめておきます。

指揮者のアバドがベルリン・フィルの音楽監督に転進して、ウィーン国立歌劇場を離れたあと、ウィーンはアバド時代の遺産を次々と反故にしはじめました。そのなかにピエール・ルイジ・ピッツィが演出したヴェルディの「ドン・カルロ」5幕版があります。この作品は当初5幕版で初演されたのですが、ヴェルディはその後第1幕を削除した4幕版も作っています(「ドン・カルロ」の成立経緯は非常に複雑なので、詳述はさけます)。
ウィーンではアバドがいなくなったとたんに、「5幕版を歌えるのはルイス・リマしかいないが、リマが確保できないから」という理由で第1幕をカット、4幕版にして上演しています。幕のカットもまたウィーン出身のノヴォ氏にとってお家芸の一つだったのでした・・・(終わり)

20050128tosirwithloveJP写真はルルの「いつも心に太陽を」アナログ・シングル盤レコード。シドニー・ポワチエ主演の同名の映画(1967)の主題歌で、ルルは主題歌を歌ったほかに、主人公の少女の友人役で出演もしている。

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コメント

新国「ルル」騒動、読みごたえがありました。ありがとうございます。
今後、すんなりいくのかどうかまだまだわかりませんね。

ところで、ウィーンの「ドン・カルロ」の話題にピピピッと反応。
1989年のですね。いろいろあるんですねぇ。
私のHPで、「ドン・カルロ」だけまとめてみました。詳細不明なのがありますが、なにか情報がありますでしょうか。
http://www.geocities.jp/cantante_espressiva/filippo.html

投稿: | 2005年1月28日 (金) 01:26

また、名前が入っていない・・・でもわかりますよね。
上のコメントはkeyakiです。

投稿: keyaki | 2005年1月28日 (金) 01:37

始めまして。

私が大好きなルイス・リマに関する事が掲載されていたので思わず書き込みさせて頂きました(^o^)

リマは「ドン・カルロ」の5幕版をよく歌っているみたいなんですが、5幕版ではリマが凄く貴重な存在になっているのですねぇ(^o^)
リマの「ドン・カルロ」って5幕版の1幕が凄く素敵なんです~(^o^)

投稿: YUKI | 2005年1月28日 (金) 11:22

>keyakiさん

ウィーンの「ドン・カルロ」でピピピッというところで、すぐにkeyakiさんと判明。
とりあえず今の所、即座に分かる情報はないんですが、気をつけておきますね。

投稿: | 2005年1月28日 (金) 21:16

前のkeyakiさん宛てのコメントで、私も名前入れるの忘れてしまいました。TAROです。

>YUKIさん

いらっしゃいませ。私もいつもkeyakiさんとeuridiceさんのサイト経由で、お邪魔させていただいてます。
ルイス・リマについてはあまり詳しくはないんですが、初来日の時のカラヤンとのヴェルディ/レクイエムは聞いてます。カレーラスが来日キャンセルで、その代役だったんですけど。

投稿: TARO | 2005年1月28日 (金) 21:25

永田さんは、日本の誇るべきオペラ歌手だと思います。永田さんがこのオペラを歌えないとは、考えられませんね。
もっと、評価されるべき歌い手の一人でしょう。

投稿: | 2010年7月12日 (月) 20:18

永田さんは、日本の誇るべきオペラ歌手だと思います。永田さんがこのオペラを歌えないとは、考えられませんね。
もっと、評価されるべき歌い手の一人でしょう。

投稿: | 2010年7月12日 (月) 20:18

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