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2005年1月24日 (月)

ルル事件の背景・1(ルルとは?)

新国立劇場で2月に上演が予定されているベルク作曲のオペラ「ルル」が3幕版から2幕版に変更されることになり、一部で大騒動になっています。なんでそんなことがいちいち騒動になるの?オペラ好きってバカじゃないの?――というのが普通な反応じゃないかと思いますが、「特定の宗教団体」にからむ噂が後をたたないことが火に油を注いでいる形。

このサイトを読んでくださってる方のうち、keyaki さんと euridice さんのサイトからおいでくださった方は、この新国立劇場「ルル事件」の詳細については、私以上にご存知だと思います。しかし他の方はあまり詳しくは知らないだろうと思いますので、ちょっと事件の背景をニュース解説してみたいと思います。しかもシリーズで。今日は「ルル」という作品そのものについて。

「ルル」は20世紀前半にウィーンで活躍したアルバン・ベルクという作曲家が作曲したドイツ語のオペラで、演奏が極端に難しいことで知られています。ストーリーはルルという女性がさまざまな男性(女性も)を誘惑しては破滅させ、最後は自らも娼婦に身を落とし切り裂きジャックに殺されるというもの。

作曲は1920年代の終わりから1930年代にかけて行われました。ということは第1次大戦と第2次大戦の間、繁栄の陰に退廃が渦巻いていた時期です。グレタ・ガルボやマレーネ・ディートリヒの時代であり、ルルはストーリー上は典型的な魔性の女、ファム・ファタールとして設定されています。ある意味では非常にデカダントな、ある意味では社会派的な、そしてある意味では愛・性と死という視点からも読める一筋縄ではいかない作品です。

ベルクという作曲家は「ルル」の前に「ヴォツェック」というオペラを作曲していました。この作品はオペラ史上屈指の大傑作で、このため「ルル」も素晴らしい作品になることが期待されていたわけです。ところがベルクは3幕で構想したこのオペラの2幕までしか完成せずに、亡くなってしまったのです。作品は未完のトルソで残されました。

その残された「ルル」はきわめて演奏が難しい作品でした。『12音技法』という特殊な技法で書かれていて、メロディーは通常のオペラのように人の耳になじむ美しい旋律ではなく、自然な音の流れとは全く別の動きをします。

※12音技法とは1オクターヴに含まれる(半音を含む)12の音をすべてある一定の順番に使っていく作曲の方法で、すべての音を平均に使うことでハ長調とかイ短調とかいった特定の調性に縛られることを逃れようとしたものです(だが別の法則に縛られることになる)。旋律に自然な流れがないので、非常に歌い難く、しかも正確な音程で歌わないと作曲家の意図は台無しになるわけです。

主役のルル役はハイ・ソプラノという高い音を得意とするソプラノのために書かれています。12音の難しさに加えて、音域の高さ、音程とリズムを正確に取る難しさ、歌詞の解釈の難しさとそれを的確に表わす表現力、そして魔性の女を演じるだけの演技力。求められる要素は並みの主役とは違って、超が10個ぐらいつく至難の役なのです。

完成されなかった3幕は完全な台本に加えて、かなりの部分ベルク自身が手がけたものが残されてはいました。(完全にオーケストレーションが完成してる部分、ある程度のオーケストレーションが行われた部分、旋律の断片、まったく手がつけられていない部分などなどが混在して残されている。)しかし断片のつながりでは上演できないため、実際に上演されるときには2幕だけ、場合によっては3幕部分を台詞の朗読や演劇の形にして上演されていたのです。

ところが1970年代になって、ベルクによって残された部分をもとにして、3幕もオペラとして完成させた人がいました。有名な現代音楽の作曲家のフリードリヒ・チェルハという人です。この3幕版は1979年にパリでピエール・ブレーズ指揮、テレサ・ストラータス主演で初演され大評判を呼びました。さらに同年フランクフルトでミヒャエル・ギーレンの指揮によってドイツ初演、チューリヒでフェルディナンド・ライトナー指揮でスイス初演、少し遅れて1983年にウィーンでも上演、これはロリン・マゼール指揮、ジュリア・ミゲネスの主演でした。こうした一流劇場が有名指揮者とスター歌手によって上演したこともあって、チェルハの補筆による3幕版は一気に世間で認知されたわけです。
20050124luluJP
ただし3幕は本来の作曲者以外の手によるものですから、あくまでも2幕版が正統という見方も無論あります。私は最近はあまりオペラ情報はフォローしてないので、よく判らないのですが、現在も劇場によって依然として2幕版で上演するところと、3幕版で上演するところがあるそうです。(明日に続く)

写真は・・・ルル3錠にしたかったのですが、我が家の薬箱には無かったので、チョコラBBで代用しました。。。。


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コメント

現在入手可能な映像は私のところで紹介した三つのようですね。一番最近NHKが放送したチューリッヒのが二幕版でした。三幕版のほうが通俗的でわかりやすいというか、予備知識無しの初体験でも、三幕後半に至って急転直下、なんというかじ〜〜んと来て、ルルに感情移入しちゃいました。二幕版はフィナーレは同じですが、ストーリー知らないと筋の展開を把握するのが難しいかもしれません。

投稿: edc | 2005年1月24日 (月) 09:37

私も「クシャミ三回るる三錠(古すぎます)」という記事を書きました.(´∀`*)ウフフ

投稿: Esclarmonde | 2005年1月24日 (月) 19:10

euridiceさん、こんばんは。
チューリヒはゲッツ・フリードリヒの演出、ライトナーの指揮で3幕版のスイス初演を行ってるわけですが、また2幕版に戻したんですね。
やはり2幕版の世界初演をした劇場だから、愛着があるのかもしれませんね。

ルルに感情移入というのは面白いですねえ。ゲシュヴィッツ伯爵令嬢に感情移入できる人って、結構いそうな気がするんですが。意外と男性に。

投稿: | 2005年1月24日 (月) 23:10

Esclarmondeさん、ようこそ。
いつもkeyakiさんのサイト経由で Operatic Night にお邪魔させていただいてます。
私は典型的な文科系なので、目から鱗のはなしばかりで、驚いています。

上のedcさん宛てのコメント、名前入れるの忘れましたがTAROです。失礼しました。

投稿: TARO | 2005年1月24日 (月) 23:15

通俗?!涙の3幕!:
ゲシュヴィッツ伯爵令嬢、女性の権利のために働こうと志を立てた直後殺されてしまうなんて・・・ 
二人の男(養父?&アルヴァ)と自分を危険極まりない売春で養っているルルに胸が塞がります・・「クシャミ三回ルル三錠」→「困ったときのルル頼み」

投稿: edc | 2005年1月24日 (月) 23:41

ああ、なるほど。そういうあれなんですね。ようやく分かってきました。


♪るーるーるるるー.......夜明けのスキャットって、、、、古っ

投稿: TARO | 2005年1月25日 (火) 00:40

>>写真は・・・ルル3錠にしたかったのですが、
>>我が家の薬箱には無かったので、
>>チョコラBBで代用しました。。。。

なんて素敵なユーモアのセンス!!

投稿: TT | 2007年7月18日 (水) 11:26

TTさん

そ、それはどうも、ありがとうございます。
この写真、なんだか懐かしい・・・
ブログを始めた初期のころは実際に写真に撮ってたんですねぇ。
いまだとこのぐらいの写真は、CGで作ってしまうところですが。

投稿: TARO | 2007年7月18日 (水) 12:02

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 来る2月、新国立劇場で上演予定のオペラ、ベルク作曲「ルル」。 1月19日、『高い水準を維持した公演を聴衆の皆様に観劇いただくため、本公演を3幕版から2幕版に... [続きを読む]

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