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2005年4月 5日 (火)

今こそアダモにしかるべき評価を

20050405ParisJPサルヴァトーレ・アダモ Salvatore Adamo、60年代から70年代前半にかけて、シャンソン界の寵児だった歌手です。ビッグ・ヒットを数々ものしていながら、もうずいぶん前に忘れ去られてしまったように思います。もちろん彼はいまも活躍していて、ヨーロッパでは多くのミュージシャン、ファンの尊敬を集めていると聞きます。しかし日本では・・・

でも本当に忘れ去ってしまって、よいのでしょうか?自作自演歌手だった彼の曲は、きわめて優れたものが多く、いいかげん日本でも再評価の時がきても良いのではないかと思います。

アダモの曲の特徴は、なによりもまずその美しいメロディーでしょう。名前からもわかるようにイタリア系の彼は、シチリアで生まれました。ものごころがつく前にベルギーのフランス語圏に移ったため、フランス語の曲を書いていますが、シャンソンよりもカンツォーネに近いクリアな旋律線をもっているように私には聞こえます。

そうしたメロディーの美しさが完璧といいたい域に達してる曲と言えば、なんと言っても「愛は君のよう」でしょうか。また同じく完成度の高い旋律美を持つ「明日は月の上で」は、今も仙台のTV局の天気予報のバックに使われているほどです。

一方「思い出の小川」「過ぎし夏のワルツ」は、むしろシューベルトの有節歌曲をすら思わせる素直でシンプルな美しさに満ちています。

アダモは1960年代の前半に「ブルージーンと皮ジャンパー」「サントワ・マミー」というヒット曲で衝撃的な登場をしたわけですが、こうした初期のヒット曲もユニークで新鮮なメロディー・ラインを持っています。しかしその後の曲と並べて聞くと、これらの曲はあるいは伝統的なシャンソンの流れの中に位置づけてもよいのかもしれません。(ただし私はシャンソンのことはほとんど知らないので、かもしれないとしか言えません。)

こうした初期のビッグ・ヒットによって、いわばシャンソン界を革新する若い音楽ととらえられた彼の曲も、やがてアメリカから来たロックの波に飲まれることになります。当時の若者たちからは、センチメンタルな曲調で愛を詩う古臭い音楽とされてしまったのです。何時の時代も文化をダメにするのは無思慮な人間という、普遍の法則がここにも見られます。

日本においては事情はまたちょっとフランスと違いました。最初のうちこそフランスに並行して、日本でもヒットが続いていましたが、やがてくる「雪が降る」日本語版の大ヒット。果たしてこれが、アダモにとって本当に良いことだったのかどうか。
この初期の曲が70年代に入ってヒットしたという逆転現象があったために、アダモが新曲を発表しても、それは日本人の一般音楽好きが期待するものとは、かなり乖離したものになってしまいました。そんなわけで日本においてはそれ以上のヒット曲を出せなかったのですね。それ以前の名曲の数々は忘れられ、「雪が降る」の人というイメージが固まってしまったような気がします。(勿論私がいってるのは、シナトラと言ったら「マイ・ウェイ」というような一般の人々の間でということです。)
それに「ろくでなし」など、日本のシャンソン歌手を自称する人々とそのエピゴーネンによって、あまりにも過剰な感情移入の施された不気味な歌い方で歌い続けられた結果、ほとんどコミック・ソングと化してしまったのも不幸でした。

しかしそろそろちゃんとこの優れた芸術家を、しかるべき位置におさめてもいいんじゃないかと思います。(まあ同じく時代を代表する優れたアーティストでも、ジャック・ブレルやイタリアのドメニコ・モドゥーニョに比べれば、日本における知名度は断然上ですが。)

カンツォーネを思わせるクリアで美しい旋律線を持つ曲。シンプルで素直な魅力を持つ有節歌曲。伝統的なシャンソンの流れに近寄った曲。と、私はアダモの曲を3つに分けてみましたが、もう一つ、4つ目のジャンルがあります。

「インシャラー」や「アンサンブル」など、非常に強い表現力を持つ曲です。きわめて強い表出力を持つこれらの曲を、ヒット・シンガー時代のアダモの最高傑作とすることに異論のある人はいないでしょう。

1967年の衝撃的なヒット曲「インシャラー」は『アラーの神の御心のままに』という意味だそうですが、アダモが前年イスラエルで公演したのをきっかけに作られました。このため反イスラエル陣営からは激しい反発を招いたそうですが、アダモの意図はただ平和を願うと言う純粋なもの。この曲の強い訴えかけは、当時はもちろん今もその意味を失っていません。

写真:パリ

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コメント

ロベルト・アラーニャさんもシチリア出身みたいです。
>仙台のTV局の天気予報のバック・・・
センスあふれる仙台ですね♪
写真も素敵です。

投稿: おさかな | 2005年5月20日 (金) 14:17

おさかな♪さんのお好きな指揮者のアバドも、父方の祖先はシチリア出身だそうです。
古代ギリシャの時代にはシチリアはギリシャの植民地だったので、アバドにもギリシャ人の血が流れているのかも。

写真はどこか忘れましたが、昔、私が泊まった下町のホテルの窓から撮りました。

投稿: TARO | 2005年5月20日 (金) 22:05

アダモのファンです。このページを友人から聞き、拝見しました。アダモを評価していただいて、ありがとうございました。
仙台の天気予報は、こちらから聞くことが出来ませんので残念です。でもFM秋田にも毎週土曜日PM7:00から「シャンソンを貴方に」という番組があります。こちらは「想い出の小川」がテーマミュージックになっております。もう30年以上続いている番組で司会をしている黒崎さんは地方でこの番組を長く続けていることに対してフランスから勲章を貰われています。
貴方が何処にお住みになっているのか存知ませんが、お聞きになれるエリアでしたら一度お聞きください。
私は年6回の会報「PetiteNouvelle」を発行しています。(会員数約80名)
 アダモを応援していただいて、たいへん嬉しく一言御礼のご挨拶まで

投稿: M.D | 2005年7月24日 (日) 14:11

M.Dさん

私のつたない記事をお読みいただいた上に、コメントまでいただきありがとうございます。
この原稿を書くときに久しぶりにアダモのCDを聞きなおしてみましたが、全く古くなっていないのに驚きました。

私は仙台に住んでいるので、残念ながらFM秋田は聞けませんが、洋楽はほとんどアメリカ中心になってしまってる日本で、しかもローカル局で30年も続けているというのは、凄いことですね。

もし私のブログのほかの記事もご覧戴いてましたら、おわかりかと思うのですが、私のブログは主にクラシック音楽(特にオペラなどの声楽)や、映画、美術などの話題が中心になっています。
ですからお出でいただくのもオペラ好きの方が多く、アダモの項目も、まさか本格的なシャンソン好きの方にお読みいただけるとは思ってませんでした。なんだかちょっと恥ずかしいような気がします。

どうもありがとうございました。

投稿: TARO | 2005年7月24日 (日) 23:01

ご丁寧なお返事ありがとうございました。私はアダモが好きで、他に目を向ける暇がありません。アダモ以外は何も知りません。
アダモに関して何かご質問などありましたら何時でもどうぞ・・・

投稿: MD | 2005年7月25日 (月) 11:51

MDさん

>アダモに関して何かご質問などありましたら何時でもどうぞ・・・

ではその時には、遠慮なく質問させていただきますね。今後ともよろしくお願いします。

投稿: TARO | 2005年7月25日 (月) 21:20

アダモは昨年新しい「ZANZIBAR」というアルバムを発表し、たいへん好評で、コンサートもたくさん予定されていました。このアルバムには「MON DOULOUREX ORIENT」私たちは日本で発売されていませんので勝手に「哀しみのオリエント」とタイトルをつけておりますが、「インシャラー」のパート2と言った感じです。
まだお聞きになっていないのでしたら是非ともお聞きください。
今ならHMVにあるようです。
「インシャラー」はアマリア・ロドリゲスのヒット曲にもなっていますが、ある人は「後世に残るもの」と評価されていました。ファンとして嬉しい限りです。書き出すと、きりがありません。
今日はこのへんで終わります。

投稿: MD | 2005年7月27日 (水) 10:40

MDさん

レスありがとうございます。新譜が出ていたのですか。ぜひとも聞いてみたいと思います。

>「インシャラー」のパート2と言った感じです。

それはますます興味深いですね。たしかにオリエントというか中近東の状況は、アダモが「インシャラー」を書いた60年代よりも悪くなりこそすれ、決して良くなっていないわけで、アダモはどうしても書かずにはいられなかったのかも知れませんね。

中東和平が実現するかと思われたとき、彼は「インシャラー」の歌詞を新らしいものに書き換えたそうですが、こんなにも早く平和が一瞬の夢に終わってしまうとは・・・

>ある人は「後世に残るもの」と評価されていました。

全面的に賛成です。

投稿: TARO | 2005年7月27日 (水) 22:52

まだ公表しないでと言われましたので、慌てて連絡させていただきました。
ありがとうございました。又新しいCDも日本で発売されるのを、お待ちください。私たちはEU盤、チリ盤、そして日本盤と同じものを3枚買う結果になります。でもこれはファンとして止むを得ないことでしょうね。では又

投稿: MD | 2005年7月28日 (木) 20:59

MDさん

>新しいCDも日本で発売されるのを、お待ちください。

そうですね。やっぱり歌詞対訳がほしいので、そうすることにいたします。
特にタイトルが奴隷貿易の基地としても知られた「ザンジバル」では、人権とかの問題に踏み込んだ内容になってる可能性もありますものね。

投稿: TARO | 2005年7月29日 (金) 00:12

はじめまして
アダモを取り扱ってくださって感涙です。
私はアダモ・サイトをHPの一部で取りあつかっております。主に作品批評です。お時間のあるときにでも一度ご覧下さいませ。
クラシック音楽も大好きなので、それらの視点を取り入れています。
アダモの音楽は現代ロックの流れのブルーノートスケールの制約を逃れ、大変な奥行きをもったものです。20世紀生まれの作曲家としては奇跡に近い才能で、敢えて言えばたしかにシューベルトが近い才能かも知れませんね。
 本当にありがとうございます。

投稿: K.U. | 2005年10月 5日 (水) 15:12

K.U.です。再度すみません。
HPは
http://www.pastelnet.or.jp/users/kyoya-u/index.htm
です。

投稿: K.U. | 2005年10月 5日 (水) 15:14

K.U.さん

コメントとサイトの紹介、ありがとうございました。
さっそく伺わせていただきました。
まだ全部はとても読みきれないので、「ワルツの曲」についてのページだけ拝読いたしましたが、大変に精緻な分析で感銘を受けました。

Valse d'Ete は最初「過ぎし夏のワルツ」として紹介されたように記憶しているのですが、途中でシングル盤のタイトルが「愛のワルツ」に変更されたんでしたね。
ブログの記事、古い方のタイトルで書いちゃいました。

K.U.さんはたいへん多方面でご活躍されてる方なんですね。最初、間違ったHPに飛んでしまったのかと思って、とまどってしまいました。(笑

今後ともよろしくお願いします。

投稿: TARO | 2005年10月 5日 (水) 23:48

HP読んで下さってありがとうございます。
こちらこそ今後ともよろしくお願いいたします。
私はアダモに対する一般的なファン意識も大切だとは思いますが、なによりもアダモ作品が貴重な音楽遺産として認知されればと願っています。シューベルトの「グレート」やショパンの真価をシューマンが伝えてくれたように、(私ではまだまだ非力ですが)アダモ作品の真価を後世に伝えることこそ最重要だと考えています。
それでは、また!

投稿: K.U. | 2005年10月 6日 (木) 00:48

K.U.さん

>アダモ作品が貴重な音楽遺産

たしかに、このまま一部ヒット曲が「懐かしのシャンソン」で聞かれるだけで、ほかが埋もれてしまうようなことがあってはならないと思います。

そういえば「ザンジバル」の国内盤が発売になりましたね。今週中に買いにいこうと思っていますが。

投稿: TARO | 2005年10月 6日 (木) 10:58

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