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2005年6月17日 (金)

フォーレのレクイエム・2

20050617ParisodeonJP昨日書いたような問題が浮上して、フォーレのレクイエムは出版までに契約から11年もかかってしまいました。

オーケストレーション問題については、フォーレは出版社に書き直しを確約していましたが、気乗りしなかったのか、なかなか手を付けなかったようです。

結局この作業は、1898年から99年にかけて行われ、1900年にシンフォニック版(フル・オーケストラ版)が初演、翌1901年にスコアが出版されることになります。
主な変更点はいうまでもなく、弦楽合奏にヴァイオリンを含めること、フルートなどの木管楽器を加えることの2点です。

この編曲作業は従来はフォーレ自らが行ったものと考えられていましたが、実はそうではないということがネクトゥーによって明らかになりました。

ある程度作曲者の意向と出版社の意向を取り入れつつではありますが、新たなオーケストレーションを施したのはフォーレの弟子のロジェ・デュカスという人だそうです。(「魔法使いの弟子」のデュカスとは別人。)
といってもロジェ・デュカスがオーケストレーションをしたという直接的な証拠――たとえば契約書とか、デュカスとフォーレの間の往復書簡とか、――は残されていない模様です。しかしネクトゥー論考は十分に説得力のあるものと思われますので、間違いないでしょう。

結局フォーレのレクイエムは大きく分けると3つの姿があるということになります。
1)1888年の初演――全5曲で、弦楽合奏にヴァイオリンは加わらず、管楽器は全く含まれない。
2)1893年頃にまとまった形――全7曲で、楽器編成は初演の形に金管楽器が加わる。
3)1900年初演、1901年出版の現行譜。――全7曲で弦楽合奏にヴァイオリンが加わり、木管楽器も参加する。

実際に演奏された形ですが、1)と2)はマドレーヌ寺院でのみ行われたため、ピエ・イェスのソロと合唱のソプラノ&アルト・パートは少年によって歌われました。
これに対し3)は、フォーレの存命中は終始一貫成人女性によって歌われています。
フォーレはこのシンフォニック版の成功をことのほか喜んでいたと伝えられ、このため果たしてフォーレの本来の意図が、少年合唱とボーイ・ソプラノ・ソロで歌われることにあったのか、それとも教会での演奏と言うことでやむをえない措置だったのかという所の判断を難しくしています。

現在1)の録音というのはおそらく無いのではないかと思います。すくなくとも国内盤では存在しません。(かつてカナダの団体の演奏で、1888年初演版というふれこみのCDが発売されたことがありましたが、1893年版の間違いでした。)

2)は現在「オリジナル版」「オリジナル版第2稿」「1893年版」などとさまざまな言い方をされているものが、これにあたります。

この形の楽譜についてですが、フォーレのもともとの自筆譜は散逸している上に、オッフェルトリウム、ピエ・イェス、リベラ・メの3章は紛失してるんだそうで、このために後年、パート譜その他から研究者が編纂した楽譜が使われています。

これは良く知られているように2種類のエディションがあって、一つはネクトゥーが指揮者のドラージュという人の協力を得て編纂したもの。ネクトゥー/ドラージュ版とよばれています。
ヘレヴェッヘの最初の録音、ガーディナー盤、ジャン・フルネが日本で録音したものなどがこのネクトゥー/ドラージュ版によっています。

もうひとつはイギリスの作曲家ジョン・ラターが編纂したラター版で、これはラター自身の指揮による録音と、クレオベリー指揮ケンブリッジ・キングズ・カレッジ合唱団によるEMI盤などが出ています。

2つのエディションの微妙な違いについては、大変に詳しく検討しているサイトがあり、とても参考になります。ご本人の許可を得ていないので、直リンはしませんが、URLを貼っておきます。
http://www.asahi-net.or.jp/~eh6k-ymgs/sacred/faureq.htm#ver2
(続く)

写真:パリ、オデオンあたり

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コメント

フォーレ、良いですよねー♪
去年の3月にカナダのケベックへ行ったときに、フランスもの特集演奏会でフォーレのチェロソナタを聴きました。初めて演奏会で眠ってしまいました。とても良かったです。

投稿: おさかな♪ | 2005年6月18日 (土) 08:01

詳しい解説有難うございます。
ヘレヴェッヘ(オランダ語の発音原則に従えば「ヘレウェッヘ」に近いらしいですが、本人は仏ラジオ出演時に「何と発音するのだ」と訊かれ、「ヘルヴェッグ」(アクセントは頭のヘ)と答えていました。オランダ語とフラマン語は微妙に異なるらしいし、固有名詞の発音は例外も多いから難しいですね)が、80年代終わりに録音と前後してオリジナル版の演奏会をマドレーヌ寺院でやったことがありました。先立ってラジオで彼やネクトゥーらを交えた座談会があり、「現行版オーケストレーションは弟子の手が入っており、甘ったるくサロン臭があるが、オリジナル版は少年合唱、Vnを欠くオーケストラ編成で凛とした美しさがある」というような趣旨で、これは良さそう、遅れてはならじとばかり駆けつけたのですが、巨大で風呂屋的音響のマドレーヌで、余りうまくない少年合唱では良く解らず仕舞いでした。ヘレヴェッヘは数年後、シャンゼリゼ劇場で、オリジナル版を今度は成人女性のソロと合唱でやったことがあり、個人的にはこちらの方が音楽的説得力は高いと感じました。(ガーディナーによるオリジナル版録音はこの演奏形態でしょうか?)
ネクトゥー校訂フル・オーケストラ版によるヘッレヴェッヘの演奏会もありましたが、これは逃しました。

投稿: 助六 | 2005年6月18日 (土) 08:44

おさかな♪さん

カナダのケベックでフランス物特集って、素敵かも。
フォーレの室内楽はどれも名曲ですが、チェロ・ソナタはなかなか渋いですよね。ピアノ五重奏曲第1番なんかは、親しみやすいような気がしますが。

投稿: TARO | 2005年6月18日 (土) 11:40

助六さん

「ヘ」にアクセントがあるんですね、衝撃!(って別に驚くほどのことでも無いけれど・・・)フラマン語もオランダ語も全く知りませんが、なんだかHの発音とかも、微妙そう・・・

とりあえず日本で普通に表記されてる書き方を使いますと、ヘレヴェッヘですがマドレーヌ寺院の時はボーイソプラノだったのでしょうか?レコーディングではアニェス・メロンを起用してますね。まあ、まるでボーイ・ソプラノのようなまっすぐな声ですが。

ガーディナーも成人女性を使っています。(ソロはキャサリン・ボット)やはり少年では得られない音楽的説得力を求めたのでしょうか?
ガーディナー盤は日本ではそれほど評価されて無いような気がするんですが、モンテヴェルディ・コアは上手いし私は名盤だと思います。

>ネクトゥー校訂フル・オーケストラ版によるヘッレヴェッヘの演奏会

ネクトゥーによれば1901年のアムレ社から出たフル・オーケストラ版のスコアには、種々の間違いがあるらしく、彼が1893年版の編纂の経験を踏まえて、新たに校訂した楽譜(1998年出版)による演奏ということですね。
これは幸いヘレヴェッヘによる録音が、日本でも発売されてまして、エディションの問題を考えれば、現時点でのシンフォニック版の決定盤という感じではないでしょうか。
(まあ、決定盤という「レコ芸」的考え方は、通常はあまり好まないのですが。)

投稿: TARO | 2005年6月18日 (土) 12:03

>マドレーヌ寺院の時はボーイソプラノだったのでしょうか?
ヘレヴェッヘは、マドレーヌでの88年位の演奏会では、ボーイ・ソプラノを起用していました。やはり音程面でちょっと頼りない気がしました。
ガーディナーその他が良く言っていることですが、例えばバッハ時代は変声が今よりずっと遅く少年合唱と言っても16-17歳も多かったから、技術的にも、精神的理解の点でも、今の少年合唱とは条件が異なると言いますよね。
でも日本の少年合唱はうまいから、フルネの録音は良いかも知れませんね。

投稿: 助六 | 2005年6月18日 (土) 20:55

助六さん

>やはり音程面でちょっと頼りない気がしました。

やはりそうなんですか。
ヘレヴェッヘの旧盤は、オケもモダンだったと思いますし、わりとこだわらない人なんだなと思っていましたが、一度は試してみて、歴史的考証よりも音楽的説得力を優先して、断念したということなんでしょうね、きっと。

日本の少年合唱のことは実は良く知らないんですが、イギリスの合唱団、セント・ジョンズやキングズ・カレッジは上手いですよね。

変声期と言えば有名なコルボ盤のアラン・クレマンは録音のあとすぐに変声期が始まって、ギリギリのところだったというエピソードが有名ですね。

投稿: TARO | 2005年6月18日 (土) 23:59

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