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2005年9月 1日 (木)

グレン・キャンベル、カントリーの殿堂入り(後)

20050901CampbellJP「恋はフェニックス」、「ガルヴェストン」、「ウィチタ・ラインマン」といったご当地ソングの連続ヒットの後、75年の「ラインストーン・カウボーイ」まで、キャンベルはビッグ・ヒットには恵まれませんでした。この時期を低迷期ととらえる人もいるようですが、それは違います。

アルバム「夜霧の別れ」「アイ・ニュー・ジーザス」「ヒューストン」そしてアン・マレーとのデュオアルバム(マレーはカナダのカントリー歌手、オペラ歌手とは別人)などはいずれも高い水準の仕上がりであり、キャンベルのヴォーカリストとしての実力をいかんなく発揮したものといえます。

この時期に特に注目されるのは2曲のゴスペル・ナンバー。
「夜霧の別れ」の中に収められた「兄弟の誓い(He ain’t heavy, he’s my brother)」と、同名のアルバムからの「アイ・ニュー・ジーザス(I knew Jesus before he was a Superstar)」です。

「兄弟の誓い」はオリジナルヒットは1967年のホリーズですが、後にスタローンが「ランボーⅢ・怒りのアフガン」に使ったことでも知られています。グレン・キャンベルはスケールの大きなバラードとして歌い上げていて、見事です。シングルカットされなかったにもかかわらず、ベスト盤に収録されることも多く、名唱と評価されているんだろうと思います。
「アイ・ニュー・ジーザス」は、ミュージカル「ジーザス・クライスト・スーパースター」の大ヒットを受けてのアンサーソング(?)みたいなもので、キャンベルは彼にしては珍しい軽やかなロック調で盛り上げています。

1975年の「ラインストーン・カウボーイ」「カントリー・ボーイ」のヒットに続いて、翌76年に出したアルバム「兄弟の掟(ブラッドライン)」はジャケット写真が、ファンを驚かせました。
あのさわやかな好青年だったはずのグレンが、顔中濃い髭に覆われていたのです。

この時期、キャンベルは不倫の愛に苦悩していたのです。相手はマック・デイヴィス夫人のサラ。2人とも、妻・夫がいるW不倫でした。同じ歌手仲間の友人から妻を奪ったとして、グレンはマスコミから相当叩かれていたようですが、77年(たぶん)に2人とも離婚が成立し、晴れて結婚することになります。

この時期の苦しい胸のうちは、77年のアルバム「哀愁の南(サザーン・ナイツ)」の中の「ゴッド・オンリー・ノウズ」「サラの歌」などで聞くことが出来ます。

そういえばバーンスタインが髭を生やしたのも、フェリシア夫人と別居した時でしたし、男の髭にはメンタル面での不安定さや、内面の苦痛を和らげる効果があるのかもしれません。

ところで不倫の苦悩と関係があるのかどうか分かりませんが、「兄弟の掟」ではグレン・キャンベルの歌は明らかにそれまでと変わっています。変わっているというより、やはり深みを増したと言うべきでしょう。このLPから目立ったシングルヒットは生まれませんでしたが(「恋のかけひき」はカントリーチャートで、1桁台までのぼりました)、私はこのアルバムこそグレン・キャンベルの最高傑作だと思っています。

中でも(LPの)B面、「レイ・ミー・ダウン」、「ボトムライン」、「シスコは寂しい街」などの、なめらかで叙情的な表現の中に、痛切な思いがにじみ出る歌唱は、ヴォーカリスト・グレンのピークと言っても良いでしょう。

あれほどの大恋愛の末に結ばれたサラとの結婚生活ですが、そう長く続かず2人は離婚。グレンはタニヤ・タッカーと3度目の結婚をします。

この時期から彼は、活動の場所をヒット・シーンからラスヴェガスのショーへと移します。そしてラスヴェガスのステージがない時期は、田舎に引っ込んで暮らすようになりました。

以降のグレン・キャンベルのCDについては、ちゃんとフォローしてませんが、カントリー色が強くなっているような気がします。

敬虔なクリスチャンで、熱心な共和党の支持者という、私の嫌いな要素を2つも持ってるグレン・キャンベルですが、歌手としてはオーティス・レディングとダイアナ・ロスを別格とすると、最も好きな人かもしれません。
殿堂入りおめでとう。

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コメント

知らない歌手さんですが、興味深く読みました。
恐らく、聞けば、ああ、あの歌ってことで知っているのかもしれません。
アメリカっていろいろな殿堂があるんですね。

それにしてもTAROさんの守備範囲、本当に広いですね。

>敬虔なクリスチャン
ってなんですか? ピューリタン??

投稿: keyaki | 2005年9月 2日 (金) 01:45

>男の髭にはメンタル面での不安定さや、内面の苦痛を和らげる効果があるのかもしれません。

な~るほど、思い当たる例続々と言いますか…。「不倫ヒゲ」、「失恋ヒゲ」、「落第ヒゲ」、「左遷ヒゲ」等もう想像が止まりません。
ブラームスやジメルマンなんかはどれでしょうかねぇ。ラヴェルみたいに髭がさっぱり無くなった例もあるし。
このエントリで私に解ったのはこの部分だけです。いつものことながら、本当に博覧博聴ですね!

投稿: 助六 | 2005年9月 2日 (金) 05:57

昔、ベスト盤の“LPレコード”を持ってましたが、「恋はフェニックス」、「ガルヴェストン」、「ウィチタ・ラインマン」くらいしか覚えていません。
後編に出てきたアン・マレー。彼女とのデュエットも、そんなのもあったなぁとかすかに思い出しましたよ。
「勇気ある追跡」も観たんですがねぇ。グレンのことは忘れてました。
ジョン・デンバーも、生きていれば殿堂入りに充分な候補だったんでしょうけどねぇ。

投稿: 十瑠 | 2005年9月 2日 (金) 06:11

>TAROさんの守備範囲、本当に広いですね。
私も驚きつつ、感心しつつ、読みました^^

P.ホフマンはカントリーにも関心があったようで、CDも一枚あります。ナッシュビルで録音したらしい・・ カントリーロードだけ気に入ってよくききます。

ですが、私、カントリーというのは全然わからないままです・・・

>>敬虔なクリスチャン
>ってなんですか? ピューリタン??

「敬虔」って言われるとポジティヴなイメージがわいてしまう私ですが、keyakiさんの質問からのイメージ、もしピューリタンだったら、「熱狂的?=狂信的」あるいは「独善的?=排他的」とか思ってしまいます・・・

投稿: | 2005年9月 2日 (金) 06:33

↑ごめんなさい、名前入れ忘れましたm(_ _)m

投稿: edc | 2005年9月 2日 (金) 06:35

>ブラームス
の髭は、美しい顔を隠すためだったんですよね。
edcさんの記事で読んだような・・・

カヴァラドッシの髭は、革命家、反体制の象徴。

日本人は、ヨーロッパでは、子供にみられがちですので、大人だという証拠に髭をはやす殿方が多いですね。
TAROさんもヨーロッパにいるときは、そうだったんじゃないですか?

>もしピューリタンだったら、「熱狂的?=狂信的」あるいは「独善的?=排他的」とか思ってしまいます・・・
edcさん、その通りです。
アメリカの連想から、ピューリタンが出てしまいましたが、アメリカの清教徒って・・・敬虔とは正反対ですものね。


投稿: keyaki | 2005年9月 2日 (金) 07:49

>>ブラームス

自分が、超ハンサム、美形なのを嫌っていたって、
どこかで読みました・・・

投稿: edc | 2005年9月 2日 (金) 07:53

こんなに沢山のコメントが!
グレン・キャンベルは今の若い人は、まるで知らないだろうし、そもそもクラシック好きの方はあまり聞かないだろうから、反応はないかもなんて思っていました。
皆様、コメントありがとうございました。


keyakiさん

「恋はフェニックス」はきっと、聞けば『ああ、あの曲ね』になると思います。

グレン・キャンベルの宗派については特に書いてあるのを読んだ記憶はないんですが、モルモンとかアーミッシュとか特殊なものだったら、それなりに記事になってると思うので、普通の(?)クリスチャンということだと思います。
(まあ、アーミッシュだったら芸能活動なんか出来るわけがないですが--ましてやラスヴェガスで!)

>TAROさんもヨーロッパにいるときは、そうだったんじゃないですか?

ギクッ!どうして分かったんでしょう?そんな話はしたことないですよね?直感?
でも理由は「子供にみられがちですので、大人だという証拠に」じゃなくて、

ブ ラ ー ム ス と 一 緒 で す か ら ぁ !

(↑すみません。冗談です。)

投稿: TARO | 2005年9月 2日 (金) 13:51

助六さん

ジメルマンは何かがありそうですね。
昔ラドゥ・ルプーが髭を生やし始めた時に、三浦敦史さんが、メンタルなものとの関わりについて何か書いてらっしゃいましたっけ。

>「落第ヒゲ」、「左遷ヒゲ」

こいらへんは一見『ふてくされて』とも思えますが、実は心にあいた穴(というか傷)を補って、なんとか平常心を保とうという無意識の意図が隠されてるかなと。

芸術家の場合は、もっと複雑なものがあるでしょうね、きっと。
単純なのはバス歌手の場合だけでしょうか。舞台でつけ髭しなくても自前ですむようにと。

>このエントリで私に解ったのはこの部分だけです。

あ、でもここが本日の核心でしたので。(笑

投稿: TARO | 2005年9月 2日 (金) 14:02

十瑠さん

「恋はフェニックス」、「ガルヴェストン」、「ウィチタ・ラインマン」をすぐに思い出せたら、もう相当じゃないでしょうか。
私の場合はファンでしたし、かなりLPとかも買い込んでいたので。

「勇気ある追跡」は、まあジョン・ウェインとキム・ダービーの映画ですよね。グレンの役は本当はちゃんとした俳優がやった方が良かったのかも。

グレン・キャンベルはデュエットの名手で、アン・マレーのほかにボビー・ジェントリーとのデュオ・アルバムや、リタ・クーリッジとのデュオ、3人目の奥さんになったタニヤ・タッカーとのデュオなんかもあります。

カバー曲も多い人ですが、1980年に発表した「ふたりは燃えて」というLPの中で、アカデミー主題歌賞を受賞した映画「ノーマ・レイ」の主題歌「流れゆくまま(It goes like it goes)」をカバーしていて、これはかなりの聞き物です。
淡々とした歌い方ですが、毎日きびしい暮しの中で必死に生きている労働者への強い共感を感じさせる感動的なものになっています。

投稿: TARO | 2005年9月 2日 (金) 14:19

euridiceさん

ペーター・ホフマンとカントリーって、なんとなく結びつかないですよね。特に顔が結びつかないような・・・
カントリー歌う歌手はすこし芋っぽくないと。

でもお好きなんでしょうね。ナッシュビルまで行って録音するなんていうのは、ちょっとレパートリーに入れてみましたくらいじゃ、やらないでしょうから。

>ですが、私、カントリーというのは全然わからないままです・・・

開拓者たちの子孫で、現在もおそらくかなり閉鎖的であろう、アメリカの田舎の音楽ですから、なかなか入り込めないものがありますね。単調さもあるし。私も、泥臭いカントリーは、苦手です。

グレン・キャンベルや「カントリー・ロード」のジョン・デンヴァーらは、随分洗練されてるので、非アメリカ人が聞いても違和感のないものになってますが。

投稿: TARO | 2005年9月 2日 (金) 14:33

>カントリー歌う歌手はすこし芋っぽくないと。

CDのジャケットの写真、けっこう「芋っぽい」ような^^;

それにしても、まあ、カントリー好きな人が聞いてどうなのかは見当もつきません。

これを機会に、ホフマンのカントリーCDについて書いて、TBさせていただきました。

投稿: edc | 2005年9月 2日 (金) 20:00

>アメリカの田舎の音楽

…まさにその、話題になっている都市近郊に生息しているものですが、地元のひとにとっては、欠かせないものみたいです。
職場でもずーっとカントリーミュージックをかけっぱなしのアメリカ人も多いようですよ。
CDショップはこればっかり。これに関しては、ちゃんと中古レコード屋も沢山あるんですけどね…

日本人でも時々これにハマるひとがいて、コンサートに出かけている方もいらっしゃいます。ラムズフェルド国防長官がいらっしゃっている時に、偶然行き合わせたとか…

edcさん:
>CDのジャケットの写真、けっこう「芋っぽい」ような^^;

確かに、私もそう思います(^^; あの写真では「翳りと陰影」をあえて隠して撮影したんじゃないかしら?^^;
あのスタジオ、その筋の方には有名ですよね。
探しているんですけど今ひとつ場所が特定できないんですよね…

投稿: Mrs.V | 2005年9月 2日 (金) 22:31

TAROさんのブログにあった絵をみると、あっ、って良く思います・・・♪

投稿: おさかな♪ | 2005年9月 2日 (金) 23:42

euridiceさん

TBありがとうございました。
今、euridiceさんのサイトにお邪魔して、ジャケット写真を見てきました。
んー、芋ではないけれど、いつものホフマンとは、ずいぶん違いますね。
歌の感想はそちらで。

投稿: TARO | 2005年9月 3日 (土) 00:12

Mrs.Vさん

そうでしょうねえ。映画とかみてると感じます。でも、

>職場でもずーっとカントリーミュージックをかけっぱなしのアメリカ人も多いようですよ。

カントリーって日本で言ったら演歌ですよね。北島三郎や八代亜紀をかけっぱなしのオフィスとかあったら、ちょっと取引見直したくなるような・・・

投稿: TARO | 2005年9月 3日 (土) 00:20

おさかな♪さん

あ、嬉しいです。明日は(すでに今日だけど)ドン・キホーテを取り上げてみようかなと思ってます。

投稿: TARO | 2005年9月 3日 (土) 00:23

>いつものホフマンとは、ずいぶん違いますね。

CDの種類に合わせた?のかも・・^^; あるいは、
年齢(50歳ですからね〜〜)、プラス あの病気の影響が表れているということもありそうです・・・

投稿: edc | 2005年9月 3日 (土) 07:56

euridiceさん

まあ、たしかに禁断の愛に悩む陰りのある青年騎士なポートレートでは、ちょっとC&Wのジャケットにはなりませんね。
本場のカントリー歌手だと、これにもう少し豪放磊落なイメージがくっつく感じでしょうか。

投稿: TARO | 2005年9月 3日 (土) 16:11

こそこそ…^^;
ひっそりとクリーブランドから戻ってきました。カントリーミュージックをBGM(勿論、ホフマンのですが^^;)をお供にして出かけたので、TB&リンクさせて頂きました。

投稿: ヴァランシエンヌ | 2005年9月 7日 (水) 07:19

ヴァランシエンヌさん

TB&リンクありがとうございます。
アメリカの大地をカントリーを流しながら走る、ぴったりですね。
それで、ドイツ人歌唱というのが、ちょっと知的っぽいかも。
後ほどおじゃまいたします。

投稿: TARO | 2005年9月 7日 (水) 15:40

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