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2005年10月18日 (火)

ザンジバル Salvatore Adamo

20051018ZanzibarJPインド洋、タンザニアの沖合いに浮かぶ大きな島があります。そこの港ザンジバルは、19世紀まで、奴隷貿易の基地として栄えました。ヨーロッパの奴隷商人たちはケニアやタンザニアで捕まえたアフリカ黒人たちを、この港からアメリカ大陸へと送りだしました。
誇り高き部族の長も、勇猛な戦士も、黒真珠のような肌の美しい少女も、みな獣のように裸にされ、鎖につながれて。

ザンジバル。どんな吹き溜まりのような港町でも、船出にはかすかな希望があるものなのに、ザンジバルからの船出は、いつも絶望と恐怖だけに見送られました。


サルヴァトーレ・アダモの新譜「ザンジバル」はフランスでは一昨年の秋発表、日本では今月国内盤が発売されました。
アダモの最高傑作という評価に対しては、なにしろ過去の作品をフォローしてないので正しいかどうか分かりませんが、少なくとも歴史に残る作品であることは間違いないでしょう。

期待はしていましたが、まさかここまでの高みに達してるとは思いませんでした。

冒頭に置かれた「ザンジバル」で、アダモは『ザンジバル』という名前のバーに集う人々のことを歌います。それはすべてを失った人々。愛を失い、誇りを失い、希望を失った人々。彼は人権を抑圧する人々を、声高に告発したりはしません。その代わりに穏やかに、絶望の中に生きる人の哀しみを語ります。
伴奏はシンプルで、流麗さと推進力を兼ね備え、渋いアダモの歌声を引き立てます。

そして14曲目の「ぼくの痛ましいオリエント」まで、アルバム全体が充実した曲と歌唱によって綴られていきます。かつての新鮮な美しさに満ちたメロディーとは異なり、ずいぶんシャンソンの定型に近くなっているような印象はうけますが、にもかかわらず陳腐さは皆無。特に歌唱の深みが、さりげないメロディーを引き立てているように感じられます。

最後の「ぼくの痛ましいオリエント」は「インシャラー」を書いたアダモにして初めて作り得る曲であり、なしうる歌唱といえるのでしょう。
『引き裂かれたオリエント、痛ましいオリエント』という歌詞が、アダモの静かな歌声で繰り返されるたびに、聞き手の胸に痛切に突き刺さります。

(なお、お聞きになる場合、歌詞が非常に重要なので、フランス語が得意な方以外は対訳のある国内盤でお聞きになることをお薦めします。ただ国内盤は最後にボーナス・トラックとして「雪が降る」の未発表ライヴというのが入っています。
どう考えてもこのCDは「ザンジバル」で始まって、「ぼくの痛ましいオリエント」で終わるべきで、こんなことはすべきではありません。こういうのはサービスとは言わず、台無しと言うのではないでしょうか。)

CDのライナーで知りましたが、アダモはこの「ザンジバル」を発表した後(04年の春)、脳脊髄膜出血になったのだそうです。一時は生死を彷徨いましたが、無事回復。今年5月、ベルギーで復活コンサートを行ったそうです。

4月5日の記事に対するコメントで、この素晴らしいアルバムの存在を教えてくれたM.Dさんに感謝します。


上が輸入版、下が国内盤へのリンクです。

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コメント

>奴隷貿易
また本題じゃないことに反応ですけど、
人間って残酷・・・

投稿: edc | 2005年10月19日 (水) 13:26

アダモファンとして、「ザンジバル」を高く評価
して頂き大変嬉しく思います。
このCDはどの曲もすばらしいですが、「ぼくの
痛ましいオリエント」を最も気に入っています。
2003年にパリのオランピアで聴きましたが、
2006年3月に東京で再び対訳付きのステ
ージを拝見出来ると思いますと、今からワクワクします。

投稿: H.O | 2005年10月19日 (水) 15:09

euridiceさん

300年もの間、奴隷貿易は行われてきたわけで、なぜこれほどまでに残酷になれるのかというのは、永遠のテーマかもしれませんね。戦争で敗者が奴隷にされるというのなら、まだ分かるのですが・・・

ザンジバルは奴隷のほかにも、アフリカからのさまざまな物品の輸出基地だったわけです。そういう場所ですから、裕福な奴隷商人やら、一旗揚げようとするならず者やら、さまざまなヨーロッパ人が集まっていたようです。まさに吹き溜まりだったのかもしれません。
いわゆるジャパユキさんの娼館もあったそうです。

投稿: TARO | 2005年10月20日 (木) 00:15

H.Oさん、コメントありがとうございます。

本当にどの曲も素晴らしいですね。
私は冒頭の「ザンジバル」に最も心奪われました。
この曲の詩は実に美しくかつ深みがあるんじゃないかと思います。と言ってもフランス語は大学でやっただけで、卒業してからはオペラや歌曲でしか縁がないので、あまり大きいことはいえないのですが。

一昨年にオランピアでお聞きになってるんですか!さぞかし素晴らしかったことでしょうね。

投稿: TARO | 2005年10月20日 (木) 00:24

新しいCD「ザンジバル」をお聞きいただき、又ご感想を詳しくお書きくださいまして、この上なく嬉しく存じます。来年3月に4年ぶりの日本公演が発表されまして、その対応に眼の廻るような忙しさの最中です。
こちらを拝見するのを気にしながら、月末となりました。
朝日新聞10月26日の夕刊にも大きく取り上げられ、アダモは日本について「他国にない平穏と善良さ」にひかれる」と率直に話しています。
この記事を読んでいない人からコピーが欲しいと言われ郵送したり、FAXで送ったり、メールに添付したり、日曜日の昨日も一日中バタバタしておりました。
外国からも日本版「ザンジバル」を早く送れと請求がきました。荷作りをしてやっと4名だけ送ることができました。
書きたいことは一杯ありますが、今日は「ありがとうございました」と心から申し上げて終わります。

投稿: M.D | 2005年10月31日 (月) 14:14

M.D.さん

お忙しい中、コメントありがとうございました。
メールにも書きましたが、事情でレスが遅れて申し訳ありませんでした。

>アダモは日本について「他国にない平穏と善良さ」にひかれる」と率直に話しています。

日本人として嬉しいことですね。来年の来日の際には、ぜひともこれまで同様、日本を楽しんでいただきたいものです。

こちらこそM.D.さんには、とても感謝しております。ありがとうございました。

投稿: TARO | 2005年11月 7日 (月) 23:22

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