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2008年2月17日 (日)

Maria makes me laugh(前)

20080217bayojpちょっと古い話になってしまいましたが、新国立劇場の「ラ・ボエーム」でミミを歌ったマリア・バーヨが、ソロ・リサイタルも開いたので感想を。1月30日、紀尾井ホール。

昔からバーヨ、バーヨと騒いでたわりには、一度もナマで聞いたことがなかったんですが、ようやく念願かないました。(かつてマドリッドのオペラが来日公演をするというニュースが音楽雑誌に載って、そこにバーヨも参加するというので期待してたんですが、流れちゃったみたいですね。ドミンゴとクーラを擁しての大規模な公演になるはずだったんですが・・・)

マリア・バーヨが日本のオペラ・声楽ファンに知られるようになったのは、おそらく彼女の最初期の録音となる90年代の初めに発売された2枚のCD、Clavesの「イタリア古典歌曲集」と「スペイン歌曲集」(ヴォルフじゃなくてスペインの作曲家の歌曲)ではないかと思います。
栴檀は双葉より芳しなのか、このバロックとスペインものという2本の柱は現在もバーヨのレパートリーの中核となっているようです。

私はCDが発売されたときにはノーマークだったんですが、数年後に中古レコード屋で「イタリア古典歌曲集」を見つけ買ってみました。ちょうど彼女がパリで歌ったヘンデルのクレオパトラが、ネットのBBSで話題になっていた時期でした。聞いてみるとなんと完全に私好みの声ではありませんか。ちょうどその頃はフランスの Auvidis-Valois から彼女の録音が次々と発売されてる時期とあって、いろいろと買い求めましたが、完全にノックアウトされたのは、グラナドスの歌劇「ゴイェスカス」。

バーヨの最大の魅力は2つあって、ひとつはちょっと細身ながら限りなく伸びていくようなシャープで透明な高音。もうひとつは蠱惑的なその音色。言葉では表現しがたいのですが、高域の透明感とは違った、色でいうならショッキングピンクまではいかない、しかし濃い目のかつ艶やかなピンク。
「ゴイェスカス」ではさらにかすかな退廃の味も加えて、カバリエともロス・アンヘレスとも異なる魅惑の歌唱を聞かせてくれたのでした。

その声の質からも予想できるように、同時期にはモーツァルトとロッシーニも重要なレパートリーとして加わってきます。モーツァルトはザルツブルク音楽祭でケルビーノやデスピーナを、メトロポリタン歌劇場でツェルリーナを歌うなどビッグな劇場での活躍が続きますが、ロッシーニはペーザロでの歌唱がかなり不評だったり、賛否両論あるようです。

そしてもうひとつフランスものもバーヨの重要なレパートリーで、「ホフマン物語」は3役を一人で歌える稀有な歌手の一人ですし、CDに録音された「オーヴェルニュの歌」もすばらしくチャーミングな出来です。(この「オーヴェルニュ」には同じカントルーブの「バスク地方の歌」がフィルアップされていて、ナバラ出身のバーヨにとってはお国ものということになります。)

で、これまでの彼女のCDを聞く限り、どう考えても声も歌唱もヴェルディ以後のイタリア・オペラには向かないんじゃないか。ましてムゼッタならまだしもミミって…と思っていました。
そんなわけで新国の「ボエーム」にも大変興味があったんですが、こちらはどうしても聞くことが出来ませんでした。残念。リサイタルも無理かと思って、駄目なときのチケットの引き取り先も確保してたんですが、ラッキーなことになんとか新幹線でぎりぎり駆けつけ、最終で帰るという(いつものような)哀しいスケジュールで行ってまいりました。(あれ?ラッキーで哀しいって矛盾・・・?)

リサイタルのプログラムは前半がモーツァルトの歌曲、後半がスペインものでまとめられエスプラ、トルドラ、モンサルバーチェ。
東京に行く前にkeyakiさんのブログで、「ボエーム」の時に彼女が「身をよじって」歌いだしたというのは読んでたんですが、それはオペラだからだと思ってました。

まあビックリ。モーツァルトの歌曲もいきなり両手を挙げ、激しく身をよじって歌いだすのです。私はかなり後ろのほうの席だったので、バーヨの顔が目の部分だけ陰になって黒く落ち窪んだ感じに見え、それが両手をふわふわさせ動いてるので、まるで以前に流行ったムンクの叫び風船のような。――見ているうちにもう可笑しくて可笑しくて笑いたくなってしまったんですが、そんな失礼なまねも出来ず途中からは目をつぶって聞いていました。

動作がこうなので、当然のように歌も表現の濃いものになります。それはそれで別に良いんですが、聞いてると段々一つ一つの曲をバーヨ・スタイルの中に押し込めて、次々と処理してるというような、テキパキ感を覚えてしまうのです。これはいったいなんでしょうか?
別に事務的に歌われてるわけではなく、1曲だけを取り上げれば感情表現もたっぷり、歌に心がこもってないわけでもなく、モーツァルトですからいわゆるベルカント・オペラのようなスタイルの厳格さを求められるわけもないと思うのですが…

まったく同じプログラムでマティスやアメリンクが歌ったとしたら、その端正な歌唱の中から、おのおのの曲の個性とモーツァルトにしか出せない輝きが浮かび上がってくると想像できるのですが、もしかするとこれがモーツァルトの難しさなのでしょうか?

もっとも声自体も前半は本調子ではなかったようです。
というのも後半のスペインものでは、声そのものの出方が一変したからです。
なによりも声量が全然違ってきました。
(続く)

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コメント

バーヨ、いらっしゃってたんですね~
(って、私はパスしてしまったんですが... ^^;)
私、偶然にも昨日急に思い立って、久々にサウンド・オブ・ミュージックのサントラを聴いていたんです。それでかもしれないんですが、バーヨの画像が、なんとなくあのシスターたちの一人と似ているような気がしちゃいました。

投稿: tsukune☆彡 | 2008年2月18日 (月) 00:52

TAROさん、こんにちは。お元気そうでよかった^^+
バーヨのリサイタルには行けたんですね。リサイタルでも
>「身をよじって」
思い入れたっぷり・・ということは
それが彼女の歌い方なのかもしれませんね・・

投稿: edc | 2008年2月18日 (月) 06:38

>>まるで以前に流行ったムンクの叫び風船のような。――見ているうちにもう可笑しくて可笑しくて笑いたくなってしまったんですが、そんな失礼なまねも出来ず途中からは目をつぶって聞いていました。

目をつぶって笑いが収まってよかったですね。 僕も以前笑いたくて笑えなくて非常に困ったことがありました。そのときは、最前列だったので、少しくらい笑ったかもしれないけど、誰にも気づかれずにすみました。

投稿: BELLO | 2008年2月18日 (月) 16:11

tsukune☆彡さん

勿論tsukune☆彡さんなら一発でわかってくださると思ってました。ということで、マリアの映像を検証しようと思ってDVDを取り出したんですが、でも結局最初のザルツカンマーグート地帯の空撮から延々見てしまいました…。まずい、明朝締め切りの仕事があるのに。。。。。

投稿: TARO | 2008年2月18日 (月) 22:12

euridiceさん

すっかりご無沙汰してしまいました。
たぶんストレスのせいだと思うんですが、12月あたりは胃腸がかなりおかしかったりして、健康面でも不安になった時期があったんですが、おかげさまでなんとか持ち直したようです。

>それが彼女の歌い方なのかもしれませんね・・

どうも同じパターンの動きが頻出するので、彼女の声の出し方とあの独特の動作が密接に連関してるような気がします。
最初は感情表現と関係してるのかなと思ったんですが、むしろ発声そのものに直結してるような感じが。でもそうだとすると随分珍しいですよね。

投稿: TARO | 2008年2月18日 (月) 22:18

BELLOさん

目を閉じると、すごく真摯にして感情たっぷりの歌が聞こえてくるんです。で、モーツァルトのフランス語歌曲の中では一番有名な「寂しい森の中で」なんか、バーヨにぴったりだろうと予想してたら、案外そうでもなくて、フ~ムムムムなんて色々と疑問もわいてきたりして、笑いはどこかに飛んで行っちゃいました。
ところで名前全部大文字にされたんですか?

投稿: TARO | 2008年2月18日 (月) 22:32

TAROさん
タイトルに座布団十枚!を忘れてました^^+++++

投稿: edc | 2008年2月18日 (月) 22:51

euridiceさん

座布団十枚いただきました!ありがとうございます!

投稿: TARO | 2008年2月19日 (火) 02:01

そうですね、前半はイマイチという感じでしたね。
やはり私も、体の動きが気になりましたが、発声との関係は考えていませんでした。

投稿: ももんが | 2008年2月25日 (月) 16:09

ももんがさん

ドイツ語歌曲はともかくフランス語歌曲はバーヨにあってるんじゃないかと思ってましたが、それほどでもないのが意外でした。BELLOさんへのレスにも書いた「寂しい森の中で」など、前半はわりと良かったものの、後半でなぜか不要な強調が見受けられたような。マニエリスティックなんて言葉も想起されたりして…

動作と発声の関係はどうでしょう。かなり珍しいとは思いますが、ありそうな気がするんです。

投稿: TARO | 2008年2月25日 (月) 23:50

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