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2011年7月 8日 (金)

ヨゼフ・スーク逝去

20110708 チェコのヴァイオリニスト、ヨゼフ・スークが7日、亡くなられたそうです。享年81歳。
直接の死因等はまだ判りませんが、2002年にステージを引退して以来、長い間闘病生活を送っていたようです。(追記:前立腺がんだったそうです。)

スークは1929年、同名の作曲家ヨゼフ・スークの孫として生まれました。ということはつまりドヴォルザークの曾孫で、いわばチェコ音楽界のエリート中のエリート。極めて優れた才能をもって生まれた上に、有名なヤロスラフ・コチアンから英才教育をうけ、プラハ音楽院卒業後はまず室内楽奏者として(プラハ四重奏団のメンバー)、ついでソリストとして世界的な活躍を始めます。

ソリストとして有名になってからも室内楽奏者としての活動は続き、ピアノのパネンカ、チェロのフッフロとともに結成したスーク・トリオは、世界を代表するピアノ三重奏団として活躍しました。
私はなぜかソリストとしてのスークのリサイタルは聞いたことがないんですが、スーク・トリオのコンサートは聞いています。本来なら私の嫌いな曲のはずの「大公トリオ」が凄くよかったという記憶があるんですが、昔のことなので細部は覚えていません。

またスークはヴィオラの名手としてもしられ、特に日本ではスメタナ四重奏団と共演したモーツァルトの弦楽五重奏曲の録音は最上級の評価と人気をかちえました。

スークに限らず20世紀後半のチェコの演奏家はおおむね、新即物主義の流れの中に位置させていいのだろうと思います。基本的にはシェリングらと同じ立ち位置ということになるのでしょう。その中でスークの演奏は美しい音色、端正でいて伸びやかな歌、全体をおおうなんとも言えない暖かみ、気品などに特徴がありました。

前の時代のヴィルトゥオーゾたちの歌いすぎ、喋りすぎ、名人芸ひけらかし過ぎの演奏と、後の時代の意表をつく解釈や、個性という名の奔放でどぎつい表情付けなどにうんざりしている聞き手は決して少なくないと思うのですが、スークの録音を聞くと本当に心からの安らぎを得るような気がします。

スークの名盤は数多くあります。というより駄盤はおそらく皆無でしょう(全部聞いてるわけではないので、断言は出来ませんが)。
ルージイッチコヴァとのバッハとヘンデルのヴァイオリン・ソナタ。
先日『思い出の名盤』に書いたばかりですが、ルツェルン弦楽合奏団に客演したバッハのブランデンブルク協奏曲。
スーク・トリオとしてのシューベルト、ベートーヴェン。
もちろんノイマン&チェコ・フィルとのドヴォルザークの協奏曲。
スメタナ四重奏団とのヴィオラでの録音などなど。

枚挙にいとまがありませんが、もしこうしたスークの名盤のなかからひとつ選べといわれたら、私はすごく迷った末にDenonから出ているモーツァルトの「ヴァイオリンと管弦楽のための作品全集」を選びたいと思います。全7曲の他、アダージョやロンドなどの小曲に協奏交響曲まで収めたもので、スーク自身がプラハ室内管弦楽団を指揮しています。

スークは後年は室内オーケストラを弾き振りしていることが多かったような印象があります。実は引退したこともご病気だったことも全然知らず、普通に活動してたんだろうとばかり思っていました。ご冥福をお祈りいたします。

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コメント

ピアノに比べヴァイオリンはあまり聴いていなかったせいもあり、ヴァイオリニストの善し悪しもいまだによくわからないのですが、スークの演奏は本当に品があって、ポルタメント等も控えめで聴いていてとても清々しい気持ちになりますね。

ディスクを検索するとアシュケナージとの共演等録音活動は比較的最近まであったようですね。白髪になったスークの写真、初めて見ました。今日は追悼の気持ちをこめてドヴォルザークのソナタとドゥムキー・トリオを聴きました。ディスクのチョイスに困ったら作曲家のお国の演奏家で、と考えていてドヴォルザークなどはスークが決定盤です。恥ずかしながら曾孫だということを知らなかったのですが、まさに打って付けということですね。

オイストラフやクレーメル等に比べたら私にとってどちらかといえば地味な存在でしたが、ベートーヴェンやブラームスのソナタも聴いてみたくなりました。

投稿: ayame | 2011年7月 9日 (土) 00:22

僕はスーク・トリオの演奏会は間に合いませんでした。
パネンカも70年代に日本でソロ・リサイタルもあったと思いますが、僕は彼も一度も聞けず仕舞いで残念でしたね。

それでもスークは82年に、パリの約1000席のこじんまりとした空席の多いサル・ガヴォーでショーソンのVn、Pfと弦楽四重奏を間近に聴くことができ、これは幸せな思い出です。情けないことに、共演者が誰だったのか、スークは他にも何か弾いたのかさえ思い出せないんですが。

後もう一回は88年5月の「プラハの春」で、ノイマンとチェコ・フィルのバックで聞いたベートーヴェンのコンチェルト。まだまだ技術的にも全く衰えのない出来でした。

その1年ちょっと後に壁が崩壊するなど誰も、自分も片時も考えなかった頃で、ヴィーンから車で入ったんですが、西側の車だけを狙う警官に「時速オーヴァー」と称して何度も止められ罰金を徴収される調子でした。仏で知り合ったチェコ人宅に世話になりましたが、大学教員の彼は、外国人宿泊の届出に落ち着かない様子で、あちこちに電話した挙句、「警察に行っても何時間も待たされる。出国時に仮に引っかかっても罰金XXだけらしいから行く必要はない」なんて言う始末でした。
3日間暑いくらいの好天で、青空の下、街は東独からの観光客で一杯でしたね。
僕はその後プラハもチェコも訪れていません。

僕もルージイッチコヴァとのバッハ、DENONのモーツァルト弦楽五重奏のLPは持ってて、特に後者は愛聴し、録音も大変優れたものと当時思ってました。ぜひ聞き返してみたいですね。

当時はバッハのソナタというと、他にシェリングとヴァルヒャ、グリュミオーとジャコテ(「ヤコッテット」とどちらが正しいのか未だに知りませんが)、オイストラフとピシュナー、コーガンとリヒターなんかがありましたけど(懐かしいでしょう!)、折にふれて聴きたくなるのはやっぱりスークでしたよね。

僕はヴァイオリンはほんとに興味覚えたことはないんですが、思い返してみると、好きだったのはシェリングとスーク、その後はハーンまで誰もいない感じ。クレメルは結構だけど「好き」というのとはちょっと別になりますしね。漸く自分の趣味に気付いた感じです。

前立腺がんだったようですね。品あるシルヴァー・グレーの温顔が目に浮かびます。ご冥福を。

投稿: 助六 | 2011年7月 9日 (土) 08:27

ayameさん

>録音活動は比較的最近まであったようですね。

そうなんです。ですからすっかり元気で活動してるんだとばかり思ってました。まさか病気で引退していたなんて…
このアシュケナージとの録音は聞いてないんですが、でも良さそうですね。最近は大曲は少し聞くのがしんどいので、こういう小品集に心ひかれます。

仮に曾孫でなくてかつお国ものでなかったとしても(という言い方も変ですが)、スークの品の良さ、豊かな歌心はあるけれど決して甘ったるくべとつかない歌わせ方など、ドヴォルザークのようなロマンティックな音楽にはピッタリですよね。
下手に民族色を打ち出すと品が悪くなるし、かといって素っ気無く演奏すると味がないし、その辺りの呼吸といいますか。
スメタナ四重奏団も民族色に傾かず、純音楽的な演奏をする団体ですから、この組み合わせが成功したのもわかります。

パネンカとのベートーヴェンのソナタ(スプラフォン盤)は大昔聞きましたが、演奏の印象は忘れちゃいました…。ジュリアス・カッチェンとのブラームスは聞いてないんですが、きっと良いでしょうね。シュタルケルが加わったピアノ三重奏曲は記憶にあります。

投稿: TARO | 2011年7月 9日 (土) 13:21

助六さん

前立腺がんだったんですか。
ガンの中ではさほど怖い方ではないと思っていましたが…

>ショーソンのVn、Pfと弦楽四重奏

スークはショーソンを録音してますから、あるいは同じメンバーかもしれませんね。CDの方はヨゼフ・ハーラとスーク四重奏団のようです。

ノイマンとチェコ・フィルとのベートーヴェンですかぁ。チェコ・フィルでしたらプラハ音楽院の卒業生が多いでしょうし、ノイマンはご存知のようにスメタナ四重奏団の創立メンバーですし。様式的にも音楽性も完璧に同じ方向での組み合わせですよね。「チェコの弦」が満喫できる感じ。

モーツァルトの五重奏曲はアマデウスかブダペストぐらしか選択肢がなかった時代ですよね。突如この豪華組み合わせの録音が登場したのは。旋律に流れず、でもよく歌い、緻密なアンサンブルだけれど、堅苦しくない。
バッハもルージイッチコヴァとのアンサンブルは抜群で、安心して聞いていられるというか、こころおだやかになれるというか。
刺激が少ない演奏は一時離れるんですが、やはり戻っていってしまいます。

>懐かしいでしょう!

ふふ。この中では私はシェリングではなく、まず第一にコーガン&リヒターなんですよね。コーガンは高校生の頃ですが、生で初めて聞いた世界的な有名ヴァイオリニストなので思い入れがあります。今はあまり聞かれることも語られることもないですけど。あのクール・ビューティな感じがなんとも言えないのです。

>クレメルは結構だけど「好き」というのとはちょっと別になりますしね。

そうですね。確かに。目を離せない人ですし、聞けば説得されるんだけど、好きかと聞かれると…

投稿: TARO | 2011年7月 9日 (土) 13:55

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