(続き)
アルミンダへの愛を歌う騎士ドン・ラミロの美しいアリアに続いて、ようやく話が進行します。
市長はベルフィオーレ伯爵を呼んで、殺人容疑は本当かどうか詰問します。うろたえる伯爵の前に進み出て、サンドリーナが身分を明かします。ショックを受けるアルミンダ。愛するサンドリーナを失うかもしれないと心配する市長。やはりヴィオランタ本人だったと喜びサンドリーナへの愛を歌おうとする伯爵。でも二人だけになった時サンドリーナは「あなたを救うために嘘をついてあの人を名乗ったのよ」と語り、伯爵を押しとどめます。
伯爵のレシタティーヴォとアリア、デスピーナを思わせるセルぺッタのアリアを挟んで、サンドリーナがいなくなったという知らせが入ります。
暗い洞窟がある荒れ果てた場所で、サンドリーナがたったひとり恐怖に震えています。誰かが恐ろしい獣が住むこの場所にサンドリーナを連れてきて置き去りにしたのです。ここで歌われるアリアとカヴァティーナは非常に大規模で聴き応えがあります。
皆がサンドリーナを探しに来る場面から第2幕のフィナーレに入ります。しかし暗闇なので誰が誰だかわかりません。そこで相手を取り違えた愛の告白などという、どこかで見た場面が入ります。でも何処かで見たんじゃなくって、実はこっちが先なんですね。――明るいところに出て人違いに気づく全員。サンドリーナと伯爵はあまりの展開に発狂してしまいます。
サンドリーナと伯爵はあまりの展開に発狂してしまいます。
大事なことなので2回書きました、じゃなくって・・・あまりの展開に気が狂いそうになるのは、見てるこちらの方ですが、さすがにいきなり登場人物を発狂させるという筋には昔から批判が多かったそうです。
結局、2幕も全員が混乱のうちに幕を閉じます。
■■■幕間
サンドリーナはいつも憂いに沈んでいるだけで、まったく庭師の仕事をやってないようなのですが、そんなことでいいのでしょうか。そもそもどうして庭師に就職できたのでしょう。あるいはなんだって偽の庭師として市長邸の造園事業に応募したのでしょう。もうちょっと簡単にできる仕事もありそうなものですが。
ヨーロッパでは庭師は非常に尊敬される職業であり、一流の庭師は芸術家とみなされていました。たとえばヴェルサイユ宮殿の庭を設計したアンドレ・ル・ノートルなどがその代表です。どう考えても侯爵令嬢のサンドリーナやその召使のナルドが、その手の庭師になりすませるとは思えません。
しかしよく考えてみれば小さな市の市長の館が、そんな凄い芸術家的な庭師を雇うとも思えません。かといって単に庭仕事をするための下働きの男女なら、「庭師」とは言わないでしょう。いったいサンドリーナとナルドは市長邸で、どんな仕事をしていたのでしょうか?
実はヨーロッパでは庭師というのは必ずしも庭仕事だけをする、という訳ではありませんでした。実は庭師は執事的な仕事も兼ねているケースがあったのです。
そうした例としては、画家カラヴァッジョのお父さんがいます。
カラヴァッジョの父はフェルモ・メリージというのですが、かの有名なスフォルツァ家の庭師でした。ご承知のようにスフォルツァ家はヴィスコンティ家を乗っとった後、ミラノの支配者として権勢をふるいました。現在も残るミラノのスフォルツァ城でそれを偲ぶことができます。
カラヴァッジョが生まれた頃は当然、スフォルツァ家のミラノ支配時代は終わっていましたが、スフォルツァはベルガモ近郊にあるカラヴァッジョの侯爵として、カラヴァッジョにも居城を持っていました。
フェルモ・メリージはその時代のスフォルツァ家の庭師だったわけですが、庭師とはいっても庭仕事をやっていたわけではなく、実質的には邸宅管理人で室内装飾なども担当していたと考えられ、侯爵に従ってカラヴァッジョの城とミラノの邸宅を行き来していたと思われます。
(カラヴァッジョの本名はミケランジェロ・メリージで、カラヴァッジョは出身地の名前をつけたということになっていますが、画家が7歳の時にフェルモがペストで死んだために、母親と共にカラヴァッジョに移ったのであって、実際にはミラノで生まれていると考えられています。たしかにあの画風はミラノという大都会の喧騒と退廃の中で幼少期を過ごした人のものという感じはいたしますね。)
そういえば日本でも江戸時代の「御庭番」というのは、決して庭仕事をするための役職ではなかったわけで、洋の東西を問わず「庭」というのには何か重要な含みがあるのかもしれません。
サンドリーナとナルドがそうした執事的な仕事をする庭師として就職したと考えれば、彼らにも仕事はできたんじゃないかとも考えられます。もっともその場合は、はたして二人も必要かという別の問題が出てきますが。
■■■第3幕
3幕はわりと短く、しかも話が強引に収束する、いささかイージーなエンディングとなっていますが、音楽はかなり充実しています。
発狂している伯爵とサンドリーナは、それぞれともにナルドを捕まえ自分の恋人と思って彼に言い寄ります。「ああ、まだ狂ってる」とナルドはちょっとフィガロを思わせなくもないアリアを歌い、サンドリーナと伯爵の二重唱に続きます。
一方、市長にはアルミンダが伯爵と結婚させるようにせまり、騎士ドン・ラミロはアルミンダとの仲を取り持つように迫ります。市長のアリア。速いテンポの推進力のあるアリアで、市長役のテノールの聞かせどころと言えそうです。
しかしアルミンダはまたしても騎士ドン・ラミロにつれなくあたり、ラミロは絶望のアリアを歌います。
次の場は庭園で眠っていたサンドリーナと伯爵が目覚めるシーンから始まります。(目覚めのシーンのオーケストラ部分はちょっと21番のピアノ協奏曲の緩徐楽章を思わせます。)気が触れていた二人はどうやら目覚めと共に治った様子(!)。二人のやり取りがレシタティーヴォと二重唱で綴られ、次第にサンドリーナが心を動かされ、ついに伯爵を許して二人の心が結ばれるまでが描かれます。二重唱は非常に美しく変化にもとんでいて、この馬鹿馬鹿しい話には少しもったいない気がするほどです。
皆の前にサンドリーナと伯爵が現れ、二人は結婚することを宣言します。アルミンダは反省し、サンドリーナを洞窟に置き去りにして殺そうとしたのは私と告白。騎士ラミロの求愛を受け入れることを告げます。セルぺッタはナルドと結ばれ、一人取り残された市長も新しい女を探すと決め、短いフィナーレとなります。
「誠実な心の女庭師よ、万歳。
皆を喜ばせてくれる愛よ、万歳」
■■■カーテンコール
最近はこの作品のDVDが数種類出ています。私はどれも見たことが無いので何が良いのかわかりませんが、オーソドックスなのが好きな人には、マックス・ポンマー指揮(ドイツ語版)のが評判が良いようですが、国内盤は廃盤みたいです。
アーノンクール指揮のチューリヒ歌劇場ライヴとアイヴァー・ボルトン指揮でザルツブルク音楽祭ライヴの二種類とも評判は悪くないようです。
他にローター・ツァグロゼク指揮のと、エストマン指揮ドロットニングホルムのも輸入盤であるようですが、いずれも詳しいことはよくわかりません。
CDはドイツ語ジングシュピール版はメイジャー・レーベルではシュミット=イッセルシュッテット盤しかありませんが、これは言うまでもなく決定版的存在。残念ながら国内盤はいま廃盤みたいです。下のAmazonのは輸入盤でしかも中古ですが2400円と値段が安かったのでリンクしておきます。
イタリア語オペラ版はハーガー指揮モーツァルテウム管、コンウェル、ズキース、ユッタ=レナーテ・イーロフ、ファスベンダー、エッツィオ・ディ・チェーザレ、トマス・モーザー(伯爵)、マクダニエルのDG盤。
アーノンクール指揮コンツェントゥス・ムジクス、グルベローヴァ、マルジョーノ、アップショウ、バチェッリ、トマス・モーザー(市長)、ハイルマン、シャリンガーのテルデック盤というのがあります。
あとシルヴァン・カンブルランがモネ劇場のオーケストラを振ったブリリアント盤もあるようです。ウーゴ・ベネッリらが出演しているようですが、詳細がちょっとわかりません。
最近のコメント