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2012年2月28日 (火)

モーリス・アンドレ死去

20120228_andre トランペットの巨匠、偉大なモーリス・アンドレが亡くなったそうです。78歳でした。

アンドレは1933年フランス南部のアレスの出身。炭鉱夫でアマチュアのラッパ吹きだった父親の感化でコルネットを吹くことを覚えたアンドレは、あっというまに上達。父親はモーリスを、友人でもありパリの音楽学校で学んだこともあるレオン・バルトロミーという人のもとに通わせます。

アンドレは自らも炭鉱で働きながら、バルトロミーのもとで4年間基礎的な教えを受けます。そして軍楽隊経由でパリ音楽院に入学。教師のレイモン・サバリクはすぐにアンドレの才能を見抜きますが、にもかかわらず音楽院時代のアンドレは必ずしも師を満足させたわけではないようです。

アンドレ自身の回想によれば、彼はサバリクの期待に沿うようには出来ず、師匠は教室の外で彼を軽くこづいて言ったそうです。「モーリスアンドレはいつ目覚めるんだ!」と。
それが具体的にどういうことなのかは判りませんが、アンドレほどの天才にとっても、やはり何かしら足りないものがあったのでしょうね。しかしアンドレはどうやらじきに目覚めたようです。

パリ音楽院を卒業した彼は、パリ国際音楽コンクール、ジュネーヴ国際音楽コンクール、ミュンヘン国際音楽コンクールで次々と優勝をとげます。
その後の活躍は目覚しく、テレマンやハイドン、フンメルらのバロック・古典派のトランペット協奏曲をポピュラーにしたのはアンドレの力ですし、クラシックの世界においてトランペットという楽器の地位を高めた功労者でもあります。
楽器会社と協同でピッコロ・トランペットを創ったのもアンドレです。

アンドレの演奏の特徴はまず明るく伸びやかで美しい音色。そして流麗でどんな難曲でも困難なパッセージなど皆無のごとく演奏するその超絶技巧にあります。
やがて全盛期を迎えるオリジナル楽器・古楽演奏の波は、アンドレの美意識とは別のところにあるのだと思いますし、そちらのほうがオーセンティックとみなされることになっていくわけですが、もちろんアンドレはアンドレで最後まで魅力的な演奏を続けました。

(アンドレや、あるいはフルートのランパルなどもそうですが、この時代に登場した管楽器のヴィルトゥオーゾたちにとって、超絶技巧はテクニック自体をひけらかすためにはなく、あくまでも曲自体の魅力を引き出すためものであったということは言っておきたいと思います。結果アンドレやランパルの演奏によって、「こんな美しい/楽しい曲があるのか」と思わされた経験が無数にあるのは、私だけでなく多くの音楽好きに共通しているかと思います。)

アンドレには数多くの録音があります。フランスの演奏家なので当然、パイヤールなどのフランスのミュージシャンとの共演があり、イ・ムジチなどのイタリアの演奏家、独墺の室内オーケストラとの共演も数多く有ります。
中で一番驚いたのは、やはりカラヤン&ベルリン・フィルとの共演でしょうか。しかし上に書いたようなアンドレの演奏の特徴、美しい音色とか流麗とか超絶技巧とか、これらはカラヤン&BPOの演奏の特徴でもあるわけで、実は驚くには当たらないのですよね。

どなたかが YouTube にアンドレ追悼としてマッケラスと共演したアルビノーニの協奏曲の緩徐楽章を上げてくれてますので、リンクしておきます。バロックというにはあまりにも耽美的に響きますが、その美しさは無類です。

エルピーダが会社更生法の適用を申請したそうです。

再建中の半導体大手エルピーダメモリは27日、会社更生法の適用を東京地裁に申請し、経営破綻。価格下落や円高で資金繰りが悪化し、自主再建を断念した。負債総額は昨年3月末時点で4480億円、国内製造業の破綻では過去最大。政府は09年に産活法を初適用してエルピーダに公的資金を投入したが、経営再建に失敗。更生計画で国民負担の恐れも。東証はエルピーダ株を3月28日に上場廃止と発表した。
(共同通信)

まことに残念です・・・。

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コメント

生い立ちが面白いですね。兎に角、天才的キャラクターが音から体から溢れたようなタイプでしたから、なんとも天真爛漫を絵に描いたような音楽家でしたね。

20年ほど前にルツェルンのヴァークナーの別荘に立ち寄ったときに庭先で偶々バウムガルトナー?とリハーサルをしていました。劇場では聞いたことはありませんが、彼がコーヒーを飲みに行くまで無料で彼の生の音を見聞きしたのが後にも先にも只一度の出会いでした。真夏の木漏れ日の間の輝かしい響きでした。

投稿: pfaelzerwein | 2012年2月28日 (火) 02:12

pfaelzerweinさん

布袋さまのような身体つきと優しい笑顔の、ほんとうに「天真爛漫」という言葉がぴったりのイメージでしたね。キャラクターと楽器がぴったり合ってて、もしピアニストやヴァイオリニストだったら、もう少し屈折がほしいなどとも思ったかも知れませんが。

>真夏の木漏れ日の間の輝かしい響きでした。

それは素敵な体験でしたね。ルツェルンのワーグナーの別荘の庭先で…眼に浮かぶようです。
ルツェルン弦楽合奏団あたりとの共演だったのでしょうか。さわやかな演奏も想像できます。

投稿: TARO | 2012年2月28日 (火) 14:11

pfaelzerweinさんの思い出は素晴らしいですね。
ほんとに眼に浮かぶよう。
ヴィスコンティの「ルートヴィッヒ」にヴァーグナーがトリプシェンの別荘で「ジークフリート牧歌」を奏するシーンがあったと記憶しますが、よい季節に訪れてみたいものです。私はまだトリプシェンを訪ねていません。

アンドレというとまず耳に響いてくるのは、エラートから出てたパイヤールのバックで吹いたハイドンの協奏曲。
ただ私は、管はいじったこともないですし管のソロには今ひとつ興味を引かれないもので、 実演はアンドレ、ランパル、ニコレ、ホリガーなど軒並み逃してしまったのが今となっては残念です。
アンドレはパリ管定期でアルビノーニやマルチェッロなんかもあったんですが。

労働者階級出身の苦労人で顔つきも庶民的だけれど、コンセルヴァトワールの教授を10年以上務めていた経歴もあるだけあって、仏ラジオに出てきたときは、使う仏語も話し振りもむしろインテリ・タイプだったので、一瞬意外感を覚えたことがありました。

ちょうどシュヴァルツコプフがフランスにマスター・クラスをやりに来る直前で、ラジオに電話出演したんですが、流暢な仏語で「あらアンドレ!そこにいるの?ボンジュール!…」とか言ってて、面識があるらしい楽しい雰囲気だったのにもヘェと思ったものでした。

投稿: 助六 | 2012年2月29日 (水) 09:46

助六さん

シュワルツコップとの関係はちょっと意外ですね。直接に共演したことがあるのかどうかは判りませんが、音楽祭で一緒になったり、あるいはふたりともEMIのアーティストですからレッグつながりで面識があったのでしょうか?

>インテリ・タイプ

才能を見ぬいた父親が即座に地元の音学家のもとで習わせるくらいですから、親がこの子を炭鉱夫で終わらせたくないと思ったんでしょうか。仮にそうだとすると他の部分もちゃんとした教育を受けさせたんだろうとも想像できますね。

アンドレ、ランパルは亡くなり、ニコレも80歳を越え引退状態、ホリガーも指揮活動がメインになってしまいましたが、でもホリガーは時々オーボエも演奏してるようですね。2年ほど前にルツェルン音楽祭でマーラー室内管と共に、イェルク・ウィドマンという若い作曲家のオーボエ協奏曲の新作初演をしたライヴをFM放送で聞きました。そういえばこのコンサート(指揮はホリガーじゃなくてジョージ・ベンジャミン)プログラムの最初の曲は「ジークフリート牧歌」でした。

投稿: TARO | 2012年2月29日 (水) 13:41

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