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2012年3月12日 (月)

閉塞感という名の幻想・1

20120312 大阪維新の会の「船中八策」だか「維新八策」だかいうマニフェスト。先週、その叩き台として作成されたレジュメの内容がわかりましたが、そこに「遺産まるまる没収」につながる項目が盛り込まれたということで、土曜日からネットは大騒ぎになっています。

橋下徹大阪市長に対する私の考えは、大阪府知事時代の日の丸・君が代条例の時に書いたことがあります。しかしもう一つ、橋下氏の文化政策についても書きたいと思っていました。大阪フィルへの補助金問題に結論が出た段階でのエントリと思っていたのですが、この相続税の件は超ビックリものでとりあえず書き始めることにしました。

私が最初に記事を読んだのは、土曜日のことで東京新聞のネットニュースでした。

橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会が事実上の次期衆院選公約「維新八策」で掲げる相続税強化策に関し、不動産を含む遺産の全額徴収を検討していることが9日分かった。資産を残さない「一生涯使い切り型人生モデル」を提唱、消費を促す税制に転換し、経済活性化を図る狙い。ただ内部に異論もあり、協議を継続する考えだ。
(東京新聞)

東京新聞には大変失礼ながら、私は最初いわゆる「トバシ記事」かと思ってしまいました。
あまりにも突拍子も無いというか、貯蓄税だのベーシック・インカムだの水道局の民営化だの言い出す時点で、この人は単なる右寄りの人だとか権力志向の人だというにとどまらず、少し気違いじみている人だというのは気がついていました。

新自由主義と見る人もいるようですが、遺産の全額徴収では正反対、ほとんど極左の域です。無政府資本主義とポル・ポト的共産主義との奇妙な混淆というあたりでしょうか?
2ちゃんねるなどで維新の会のことをクメール・ルージュと揶揄してる人達がいましたが、どうしてだろうと思ったらこういうことだったのですね。

よくみたら東京新聞の記事には(共同)とクレジットしてあって、共同の配信した記事だと気がついたのですが、むしろトバシは共同の方がやらかしそうな気もして「?」な気分になっていると、ほどなくして産経が続きました。

社会保障では「一生使い切り型の人生モデル」との新機軸のもと、たたき台では年金制度での積み立て方式と富裕層の掛け捨て方式の併用、最低限所得保障を伴うベーシックインカムや「負の所得税」の導入検討を織り込んだが、さらに保険料の徴収強化を目的とした歳入庁の創設も掲げた。
最低限所得保障は年金や生活保護、失業保険制度の廃止をにらんだ方策だが、一方でばらまきにつながるとの指摘もあり、維新内部でも異論があるようだ。

同様に、たたき台に盛り込まれた資産課税についても意見が分かれる。相続税100%化につながる案が示され、所属議員から懸念の声が上がった。「資産課税をやると、富裕層が国外へ出ていく可能性がある」。維新幹事長の松井一郎府知事も5日、「(維新八策に入れるのは)厳しいんじゃないか」と述べた。一方、橋下氏や政策責任者の浅田均府議会議長は推進派だといわれる。

(産経ニュース)

「相続税100%」というのと「遺産の全額徴収」では、少し意味あいが違ってきます。

現行の相続税の場合は、《5000万円+(1000万円×法定相続人の数)》が基礎控除額として認められています。ですから遺産を受け取る人が一人なら、6000万円までなら非課税。それを越えると、越えた分に対して金額に応じて10%~50%までの範囲で課税されます。
相続人が五人だったら、《5000万円+(1000万円×5)=1億円》までが基礎控除額になりますので、一人あたりの相続額に置き換えると2000万円までは非課税となります。それを越えると越えた分に対して最高50%までの範囲で相続税がかかります。
(ただし配偶者控除制度などもあり、実際にはこのような単純計算にはなりませんが。)

相続税100%という表現の場合
1. 現行の基礎控除額を維持して、それを越えた分を全額徴収。
2. 現行の基礎控除額を引き上げて、それを越えた分を全額徴収。
3. 現行の基礎控除額を引き下げて、それを越えた分を全額徴収。
4. 非課税枠を認めず、とにかく遺産は全額徴収。

4つのうちのどれかということになります。共同通信(東京新聞)の表現だと4.に読めますが、産経の表現だと、いったいどうなのかちょっとわかりませんでした。

zakzakによれば、

相続税強化は8日の非公開会合でも議論され、所属議員が「遺産を100%徴収する趣旨か?」と質問。政策責任者は肯定する一方、法人による土地所有などは課税対象外との見解を示した。
複数の議員から租税回避や地価下落などに懸念の声が上がったという。子孫に財産を残せないことで、勤労意欲が低下するとの指摘もある。
(zakzak)

この記事だとどうやら遺産の全額徴収、つまり上の分類の4.で間違いないように読めます。

これはあくまでも検討資料、あるいは政治塾の勉強会の資料ですから、おそらく「維新八策」には入らないだろうと思います。これが入ったらテレビも一斉に報道するでしょうし、おそらく一気に橋下離れが起きるでしょう。しかし入る入らないが問題なのではなく、橋下氏がこのような過激思想の持ち主であるということが重要なのではないかと思います。

なお、テレビ朝日ニュースによりますと、

橋下大阪市長が率いる大阪維新の会は10日、国政進出に向けた政策の骨子を話し合いましたが、橋下代表は「党の政策ではなく、単なる政治塾の資料だ」とトーンダウンしています。

とのことで、骨抜きになってるとか、評判悪いとすぐに引っ込めるとか批判されないように、予防線は張っているようです。それにしても「単なる政治塾の資料」とはアレレ?という感じ。2月の項目発表の後には「国民への踏み絵」とか言って、薄ら笑い浮かべながら胸張ってたような気もしたけれど…

20120312_3 仮にコレが実現されたらどうなるでしょうか?
この相続に対する考え方は「維新八策」のレジュメにも入っていて、橋下氏がツイッターで何度も呟いてることですが、「一生使い切り型の人生モデル」というのに基づいています。この一生使いきりという「宵越しの金はもたない」的江戸っ子風味の生き方が橋下氏のモットーらしいのですが、税制や社会保障制度を変えて国民の生活を新たなモデルに強制的に合わせようというのが、維新の会の方針のようです(骨子を読むとそうとれる)。

彼がどう生きようと人の勝手ですが、まったく余計なお世話です。大阪はコストカッターが欲しいんだったら、カルロス・ゴーンでも呼んでくればよかったのに。(まあ橋下氏は薄給に甘んじても、ゴーン氏は高給を要求すると思いますが。)

ケース1

夫婦子供1人で夫名義のマンションを所有。預貯金はゼロ。マンションが1億2000万円と査定された場合。
夫が死んだ場合、遺産は全額徴収されますので当然マンションは国家によって没収されます。(貯金があってもそれも没収されます。)奥さんと子供は路頭に迷います。

仮に現行と同じ基礎控除(5000万円+1000万円×2人)が認められた場合でも、マンションに住み続けた場合には5000万円の相続税を払わなければなりません。それは無理ですから売りに出すか、物納しなければなりませんが、この時点では不動産を買っても一代限りで子供にも奥さんにも残せないので、不動産業界は冷え切ってるはず。物納ラッシュになりそうです。やはり奥さんと子供は路頭に迷う事になります。

ケース2

ということで、この夫婦は夫が自分が死んだ時のことを考えて、とぼしい給料の中から子供名義でせっせと預金に励んでいます。ようやく3000万円たまりました。これだけ備えがあればマンションが相続税でとられ、母子家庭で賃貸アパートに住んでも、母親がパートでもすれば子供は大学までいけるでしょう。しかし子供が不慮の事故で死んでしまうということは当然ありうる話です。夫妻は子供の他に、つましい生活の中で貯めた3000万円も失うことになります。

現行の基礎控除と同じ額が非課税として認められれば、3000万円は没収されません。

ケース3

相続税法の改正が必要ですが、法律には施行日というものがあります。
たとえば今年の6月1日から施行されるとしたらどうでしょうか?5月31日に死ねば子供に遺産を残せるのに、1日ずれて6月1日に死ぬと全部国家に没収されるとしたら…。おそらく施行日を前に自殺する老人が激増することが予想されます。

ケース4

贈与という手があります。相続人が奥さんと子供が7人の場合、毎年110万円の贈与までは非課税ですから、一人に110万円×8人で880万円のお金を自分から家族に移すことができます。少ないようですが10年続けると8800万円。20年続けると1億7600万円になります。家族一人につき2200万円ずつ資金移動をしたとみなせます。非課税ですから、家族間に何らかの深刻な問題がない限りこちらを選ぶべきでしょう。

もし1億7600万円を自分名義の預金で残していたら、全額徴収ですからまるまる持って行かれます。現行と同じ基礎控除が認められたとしても、《5000万円+1000万円×8人=1億3000万円》で、4600万円は税金を払わなければなりませんから、生前にちまちま贈与を続けていくのが断然有利です。
(ただし毎年10年間110万円ずつ贈与するなどと約束してる場合には、定期金に関する権利を贈与されたものとみなされ贈与税がとられます。)

贈与税は累進課税ですから、あまり税率の高くない範囲である程度の金額の贈与税を支払うという手もあります。例えば300万円だったら税額は18万5000円です。毎年それだけの金額の贈与税を払っても10年で一人あたり3000万円、20年なら一人あたり6000万円の財産を家族名義に移してたほうが、死んで4億8000万円をまるまる国家に没取されるよりははるかに良いと考えられます。

ただしあくまでもこれは贈与税の控除額や税率に変更がない場合です。法律ができてから始めても、贈与税の方も変えられるかも知れないし、無意味になるかも。既にやってる人はどうなろうと安心ですが。

ちなみに橋下大阪市長は、かつてはサラ金と商工ローンの顧問弁護士として多額の報酬を手にしたと伝えられており、その後は売れっ子のテレビ・タレントとしてしこたま儲けたはずですが、なぜか預金は900万円しかないそうです。奥さん一人とお子さん7人います。

この遺産没収のアイディアはどこから出てきたのか。私はたぶん橋下氏自身のアイディアだろうと思います。貯蓄税は反発が大きく取り下げましたが、貯蓄から税金を取らない代わりに、遺産は全部いただくというのは凄いアイディアです。さすがはブラック金融会社の顧問弁護士をしていただけのことはあります。

ネットでは公明党との選挙協力のからみから、創価学会の入れ知恵ではないかと推測してる人がいますが、私はそれは違うだろうと思います。たしかに遺産が全額相続税でとられるなら、生きてるうちに宗教団体に寄進しましょうというのは、現実生活ではありがちなことですが、だからといってこんな国民から総スカンされそうな提案をするとは思えません。どうみても公明党/創価学会はもっと大人ですし、うまく立ちまわれます。

「一生使い切り型の人生モデル」を国民総てに強制するには、これが一番と思い考えたんじゃないでしょうか?ただしツイッターでは相続税については一切ふれてないようなので、自分でもどう受け止められるか自信がないのではないかと思います。

骨子段階では「それは素晴らしい」とおだてておいて、実際の「維新八策」に入れさせ、正式発表の時にあらためて国民に維新の危険性に気づかせるという手段が良かったかと思いますが、こんだけネットで騷がれては…。まあ今のインターネット社会でそういうことは無理なので、それが少々残念です。
(続く)

※一番上の写真は与兵衛沼の白鳥。誰かが餌付けしたらしく、人が来ると餌をもらおうと寄ってくるようになりました。それも行列作って。ここ数日全く見ないので、どうやら先週、北に旅立ったみたいです。2つ目の写真は大阪市役所。Wikipediaからです。

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