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2012年3月16日 (金)

閉塞感という名の幻想・5

20120316_5 年金・健康保険などに使われるお金をまとめて「社会保障給付費」と言いますが、これはいったいどのぐらいなんでしょう?
平成21年度のデータでは、総額でおよそ100兆円にのぼっています。
正確には99兆8507円。

分野別に見ると
▼「医療」が30兆8,447億円で総額に占める割合は30.9%
▼「年金」が51兆7,246億円で51.8%
▼「福祉その他」が17兆2,814億円で17.3%
となっています。福祉というのは生活保護費などです。

これに対して財源なんですが、以下のようになっています。

収入総額は121兆8326億円。
▼「社会保険料収入」つまり年金だとか健康保険料だとか雇用保険だとかで、納めたり天引きされたりしてるものの総額が55兆4,126億円(45.5%)。
▼「公費負担(国+地方)」が39兆1,739億円で32.2%
▼その他に「その他」という項目があって、「その他」のうちの「資産収入」が14兆6,154億円。具体的にはよく分かりません。「その他」の「その他」が12兆6,307億円となっています。積立金からの受け入れなどが入るようです。

その他は年によって大きく変動するようですので、とりあえず無視すると、55兆円は保険料収入でカヴァーできるものの、40兆円が一般会計から税金を繰り入れてこないとまかなえないということになります。上の公費負担のところに(国+地方)と書いてありますが、「地方」とは地方自治体が負担してるぶんです。ただこれは国からの地方交付税交付金があてられているので実質的に国の負担と理解してください。

維新の計画だと、この55兆円の収入はゼロになります。まず年金はリセット(清算)し、あらたに積立方式になるわけですから、独立して考えざるをえずベーシックインカム(以下BI)の財源にはなりません。
健康保険は民間の保険会社を活用することになるでしょうから(あくまでも私の推測)、約31兆円の負担が減る代わりに、保険料収入もなくなります。
雇用保険も廃止になります。はっきりしませんが介護保険も廃止になるでしょう。社会保障は一本化されるので船員保険などの特殊なものも廃止されるはずです。

新聞等によりますと、大阪維新の会はBIの支給額を月6~7万円と考えてるようです。おそらく7万円とした時の計算だと思いますが、BIを実施した場合1年に約107兆円かかるそうです。

その財源をどうするかですが、便宜的に上の平成21年度のデータをそのままあてはめて考えると、とりあえず40兆円は公費負担できると考えていいのでしょう。

これまで消費税はまるまる社会保障費にあてられることになっていました。今はおよそ10兆円ですから、仮に税率を2倍に引き上げ、かつ消費に陰りが全然出ないという前提だと、あと10兆円公費負担を増やすことが出来ます。
ところが維新の八策レジュメでは地方交付税を廃止して、そのかわり消費税を地方税にするという案が盛り込まれています。(これは関東や阪神圏など消費の旺盛な地域にはメリットですが、その他の地方には極端なデメリットになります。だから田舎に住んでるくせに、維新を支持してる人は考えを改めましょう。)

地方交付税を17兆円ぐらいとすると、地方交付税(17兆円)を廃止した代わりに、消費税分(10兆円)も入ってこなくなるので、差し引き7兆円余裕が出ることになります
40兆円+7兆円で計47兆円、平成21年度と全く同じ会計規模で推移した場合、47兆円の国庫負担は可能だということになります(とうぜん国債発行額も同じとして)。

ということはBIに107兆円かかるわけですから、BIを実施するためには、現状よりさらに60兆円を、捻出しなければなりません。

20110316_ このためレジュメではまずいくつかの経費削減案が出されています。例えば国会議員の定数削減、歳費の削減、政党交付金の削減、公務員の人件費削減など。政党交付金なんて削減ではなく廃止すべきだと思いますが、廃止と書いてないのは国の財政を心配する前に、自分たちにだけは金よこせってことでしょうね。

しかしまあこれらは60兆円の前には焼け石に水でしょうから、なんらかの増税をしなくてはなりません。
今のところ提案されたものの消えたものも含めれば、
貯蓄税、資産課税、ストック課税などの言葉があげられています。それにプラス相続税の100%徴収ということになります。
これらはいずれも単純に税金を取るというだけではなく、消費を活発にして景気を浮揚したいという意図も込められているようです。

このうち貯蓄税という言葉は、2月の骨子発表の時、あまりにも不評だったため引っ込められたようです。
ストック課税という言葉と資産課税という言葉は同じ意味だと思いますが、八策レジュメでは使い分けられています。ちなみに貯蓄税もストック課税ですから、単語を引っ込めたからといって内容的に消えたのかどうかは判りません。
なぜならこんな文言があるからです。

資産課税⇒金融資産以外の資産についての税は資産を現金化した場合又は死
亡時に精算(=フローを制約しない)

普通によめば金融資産にも資産課税をするつもりだと考えられます。貯蓄税は言葉が消えただけであろうと疑わざるをえません。このあたりはちょっとハッキリしません。もし資産課税の言葉に隠れて貯蓄税が生きてるんだとしたら、貯蓄税・資産課税の是非とは別に、その姑息さをこそ嘆かわしく感じざるをえません。

ところでこの文章、資産を売ったり相続したりした場合にはガッチリ税金で取りますよということだと思います。しかしこれってストック課税の精神から言って、ちょっとズレてるんじゃないでしょうか?

基本的にストックに課税するというのは、単純に税収をあげるというだけでなく、眠っているストック(固定資産など)を有効活用するために、活用できる人への所有権の移譲を促すという目的もあります。たとえば土地の場合、現在も固定資産税はありますが、もっと税率を高くして高額の課税をし、それを払えない場合は手放すということになります。そしてより有効活用できる人なり企業なりが、その土地を活かせばいいという考え方です。資産を持っている人はずっと高額の税金を払い続けてきたわけですから、そのかわり資産を移譲したり、贈与したり、相続した場合は、そこにかかる税金をなくすというのが、資産課税においてはよくある考え方のようです。
しかしなぜか維新はそれを選ばずに、相続時課税を選んだのは、維新の目的やその他の政策との整合性から言ってちょっと解せないところです。(どちらがベターかというのはまた別の話で。)

ストックに対してフローの方ですが、ストック課税はするけれど、フローには消費税以外は課税しないというのも盛り込まれています。
フローというのは商行為というか経済活動全般と考えていいと思います。フロー課税は酒税とかガソリン税とか自動車重量税とか何とかかにとか。所得税も勿論フロー課税ですから、フローには課税しないと言ったら所得税も廃止するということかと思いたくなりますが、そうでもないようです。なぜなら国民全員が確定申告などと言ってるので。

消費税以外はフローには課税せず、その消費税も地方税にしてしまうということは、一般財源が完全に不足してしまいます。
仮に所得税率をあげ法人税率をあげ、貯蓄以外のストック課税を新たに新設しても、間に合うのでしょうか?ものすごく景気がよくなっても、私は国債償還分にすら間に合わないのではないかと思います。資産課税を強化し、現金化の時の課税ではなく、毎年とるようにしても果たして間に合うかどうか。

日本の国民総資産はものすごいもので、8400兆円を超えています(2007年)。これは企業の所有する資産も含まれていて、個人の金融資産は2007年の調査では1400兆円です。
これより新しい数字がちょっと見つからなかったので、今はどうなってるか判りませんが劇的な変化はないだろうと思います。

企業の資産に高い税率をかけて、できるだけ手放すように仕向けるというのは、ちょっと変すぎるのでさすがにそれはないでしょう。相続税の100%課税からも法人は除かれています。
相続税などは人間いつ死ぬかなんて分らないので、恒久的・安定的な財源とは見做せないような気がします。上に述べたような方法、いわば維新方式を取る限り、やはり個人の金融資産すなわち預金に課税するしか方法が無いのではないかと思います。

そこで仮に個人の金融資産1400兆円に課税して、不足するベイシック・インカム60兆円の財源にするとしましょう。

1400兆円から60兆円を引き出すには税率約4.3%ということになります。もし預金者が失った4.3%分を補填し続けることが出来れば、税率を変えずにこれでなんとか持ちます。ベイシック・インカムが持続すれば世界の歴史に残る快挙と言えるかもしれません。しかし毎年60兆円ずつ預金が増えていくなんて、普通の状態でもありえません。結局この資産は税金で取られた分だけ減っていくことになります。

つまり実際にはそれが成立するのは1年目だけで、2年目には1340兆円から60兆円を引き出さなければならないわけですから、税率を4.5%に上げないといけません(誰も預金を下ろさない、入れないという前提で)。
3年目には1280兆円から60兆円をひき出すので、税率は4.7%に上がります。

いずれにせよ現実にはこのようなことは起きません。なぜなら貯蓄税が始まった段階で皆、預金を解約するからです。

取り付け騒ぎが起きて、倒産する銀行が続出、日本経済はおそらく破綻し、日本発の世界恐慌が起きるかもしれません。(その前に中国バブル破裂を原因とした恐慌が起きてなければ。)

そんな指摘が相次いだんだと思います。大阪維新の会はレジュメから貯蓄税という言葉を省いてしまいました。しかし貯蓄税も実施せず、固定資産にたいする課税も売却する時点までは徴収しないとすると、あとはどんなストック課税があるのでしょう?私は経済学には素人なので、全然思い浮かびませんが、政治塾の皆さんが議論のなかから凄いアイディアを沢山出してくれることと思います。興味津々です。
(来週あたりに続く)

※2枚目の写真は国会議事堂衆議院側の噴水。Wikipediaからです。何故に二人がポーズしてるのかは不明です。

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