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2012年4月 4日 (水)

「マッカーサー・パーク」リチャード・ハリス ~思い出の名盤・54

20120404_macarther_park_2 俳優のリチャード・ハリスが1968年に出したこの曲は、当時としては珍しい7分半もかかる大曲でしたが、全米第2位まで上がるなどアメリカでは大ヒットしました。なのに、なぜか日本ではさほど話題にはならず、多分10年後にドナ・サマーがカヴァーし全米1位となったディスコ・ヴァージョンの方がよく知られてるかと思います。

作詞・作曲はジミー・ウェッブ。67年に発表したフィフス・ディメンションの「ビートでジャンプ」とグレン・キャンベルの「恋はフェニックス」でグラミー賞を独占、天才ソング・ライターとして一躍時の人となったウェッブですが、その彼にしても冒険的な曲でした。

歌詞は分かりやすい英語で書かれているにもかかわらず、象徴的で難解。ハリスの歌唱は俳優の歌らしく台詞の朗誦にも似て、きわめてドラマティック。伴奏はビートルズ全盛時代にもかかわらず、大時代なオーケストラ。いったい斬新なのか時代錯誤なのか判らないきわめてユニークな曲でした。

ジミー・ウェッブの曲は、後の「クリスティアン・ノー」(クリスティアンはウェッブの子供の名前)などに代表されるように、彼の個人的な世界を歌ったものが多く、初期のヒット曲ももちろんその例外ではありません。しかしフィフス・ディメンションが「ヘアー」のカヴァー曲を出すように、またグレン・キャンベルの「ガルヴェストン」や「ウィチタ・ラインマン」がラヴソングの枠を越えた社会性も獲得しているように、60年代後半のヒット曲の数々はやはりフラワー・チルドレン、アメリカン・ニューシネマ、そしてその終焉という、いわば「時代の申し子」とでも言いたい側面は無視できないように思います。
しかしその中でこの「マッカーサー・パーク」は、ぽつんと孤立しています。Tシャツとジーンズの世界から、重量のあるコスチュームを着た演劇かオペラの世界へ。一方でロッド・マッケンの繊細な詩の世界に近づいているような感じもあって、一筋縄ではいきません。
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春はどうしても僕らを待ってはくれなかった。
踊りながら追いかけてた時には、ほんの一歩前にいたはずなのに。

本のページの間に、僕らはぴったりとはさまれてた。
まるで愛という熱いアイロンでプレスされたストライプのズボンみたいに。

マッカーサー・パークは夕闇に溶けて、
上を覆った甘い緑の砂糖が流れ落ちて消えていく。
誰かが雨の中にケーキを忘れていったけど、
僕にはもうケーキは手に入らない。
だってケーキは焼きあげるのに時間がかかるし、
僕にはもう決してレシピは思い出せないから。

20120404_macarthurparkla 英語に詳しい人には大激怒されるかもしれないほど、大胆に意訳してみました。
マッカーサー・パークはロサンゼルスにある公園で、前は違う名前だったのがマッカーサー元帥にちなんでこの名前に変更されたのだそうです。(画像はWikipediaから。)

色々と比喩的表現に富んだ難しい歌詞ですが、情景が浮かんでくるような美しい歌詞でもあります。

YouTube はこちらからどうぞ

この曲を歌ったリチャード・ハリスはアイルランド出身で、1930年生まれですからこの時38歳。
2002年に亡くなっていますが、古い映画ファンには「ジャガーノート」や「カサンドラ・クロス」で、若い映画ファンには「ハリー・ポッター」シリーズのアルバス・ダンブルドア役、「グラディエイター」のマルクス・アウレリウス帝の役でおなじみかと思います。ロンドン音楽演劇アカデミーの出身で、舞台と映画双方の名優として知られています。

彼の名前を一躍有名にしたのは1963年のリンゼイ・アンダースン監督「孤独の報酬」で、アカデミー主演男優賞にノミネートされました。その他にも「ナバロンの要塞」や「天地創造」(カイン役)などの有名作品を経て、この曲を出す前年の67年にはミュージカル映画「キャメロット」にアーサー王役で主演しています。もしかするとここでの歌が「マッカーサー・パーク」に繋がったのでしょうか?当然ですが、同じ路線の歌い方――ドラマティックではあるけれど、朗々と歌い上げるのではなく――になっています。

この「キャメロット」で、ハリスはゴールデングローヴ賞のコメディ・ミュージカル部門の主演男優賞を受賞していますが、私はあまり良いとは思いませんでした。もちろん演技は上手いんですけども、完全なミス・キャストだったように思います。

「キャメロット」は「マイ・フェア・レディ」と同じアラン・J・ラーナーとフレデリック・ロウのコンビによるブロードウェイ・ミュージカルで、これまた「マイ・フェア・レディ」と同じくワーナー・ブラザースが映画化権を獲得していました。
舞台ではジュリー・アンドリュースとリチャード・バートンによって演じられたのですが、ワーナーは「マイ・フェア・レディ」に続いてまたもジュリー・アンドリュースを起用せず、リチャード・バートンとエリザベス・テイラー夫妻で映画化すると発表します。
ところが「メリー・ポピンズ」と「サウンド・オブ・ミュージック」でジュリーは瞬く間に興収ナンバーワン女優になってしまいます。あわててワーナーはリズを降ろして、ジュリーにオファーしたのですが、当然ジュリーはこれを蹴ってしまいました。
さらにリチャード・バートンも降りてしまいます。バートンが降りた理由は私は知らないのですが、どう考えても奥さんのリズが不当に下ろされたのだから、怒ったんだろうと思います。

結局「キャメロット」の主演は、リチャード・ハリスとヴァネッサ・レッドグレーヴになりました。そしてワーナーは曲中の歌を吹き替えにせず、俳優本人に歌わせるという大胆な策に出ます。アカデミー賞を意識したのかも知れません。
でもこれは失敗でふたりとも上手くないのです。それでもハリスはまだレックス・ハリスン系のミュージカル歌唱と思えば我慢も出来たのですが、レッドグレーヴは比較対象がジュリーなので、失望の極みとしか…。(まあ当初の予定通りエリザベス・テイラーを起用したとしても、すでに太ったおばさんになっていたリズに、処女のまま見知らぬ王のもとに嫁に来る純情な乙女なんか出来るわけが無いので、やってもパロディになっちゃったことでしょうが。同じ事はハリスにも言え、年齢的にもアーサー王の役には老けすぎていて駄目でした。)

そんなわけでリチャード・ハリスの魅力は「キャメロット」では全く発揮されずに終始したのですが、うっぷんを晴らすかのようにこの「マッカーサー・パーク」の録音では、彼にしかできない独自の領域を切り開いています。
歌がうまいか下手かといったら、当然ドナ・サマーの方が圧倒的に上手いし、その他この曲をカヴァーしているシナトラはじめ数多くの名歌手にかなうわけはないのですが、でもどんな名歌手よりもハリスの方が味があるのです。

「これがオリジナルである」という意識からの偏見もあるかもしれませんが、これは多分時代のせいじゃないかと思います。深く内面に入り込んでいながらも自閉的にならず、自由にどんな冒険でも許される。60年代後半という時代。
最初に「ぽつんと孤立」しているなどと書きましたが、実はここにもやはり時代の刻印ははっきりと押されていたのではないか。他の「上手い歌手」達によるカヴァーも、それだけは表現出来なかったのではないかと思います。

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コメント

>オリジナル マッカーサー・パーク

いい雰囲気です。
オリジナル、初めて(意識しては)聴いたように思います。
ありがとうございます。

投稿: edc | 2012年4月 6日 (金) 09:57

euridiceさん

あ、そうでした。ペーター・ホフマンも「ロック・クラシックス」で、歌ってたんでしたね。
You Tube で聞いてみました。勿論ハリスとは全く違うアプローチですが、ドナ・サマーのファンキーな歌とも異なるまさに《ロック+クラシック》で、ユニークですね。やはり伸びる高音は気持ちいいです。
ロック調の伴奏にしないで、完全にオペラティックなアプローチでも歌って欲しかったような。

投稿: TARO | 2012年4月 6日 (金) 14:51

アメリカ、ミシガン州在住です。
ドナ サマーが亡くなったそうですね。彼女の名前は覚えておりませんでしたが、マッカーサーパークは好きでした。英語の歌詞がピンとこなくてインターネットをウロウロしていたらこのサイトに行き当たりました。
プロフィールの白黒写真、かわいいですね。私の母はお地蔵さんの赤いよだれかけ、子供3人分、手縫いしていましたよ。私も手伝わされていました。

主人が外国人のため(ドイツ語とクロアチア語が母国語)英語でしか会話できないのに、これがとっても今ヒトツ。お互い不自由しながら生きてます。

日本語はもっぱらインターネットで楽しんでいます。本当に世の中、便利になりました。

今後も楽しい文章、楽しみにしております。

Amy

投稿: Amy Kerns | 2012年5月18日 (金) 02:47

Amy Kernsさん、はじめまして

衝撃です!ドナ・サマーが亡くなっただなんて…
思わず各社のニュースをググってしまいました。癌だったんですね…

英語の訳は私もこんなんで良いのかどうか、かなり自信ないのですが。
スウィート・グリーン・アイシングというのが、最初はあまりピンと来なかったんですが、ネットで検索したらアメリカでは緑色の砂糖で覆うケーキがあるんだそうですね。甘味系には疎いので全然知りませんでした。実在するマッカーサー・パークの写真を見ると、確かにそう見えてくるような気も。

お互いに外国語で話すというのは、かなり大変なことなんでしょうね。フランスやイタリアのホテルやバールなどで、英語で会話するとスムーズに流れてた話が時々急に通じなくなったりしますが、そんな感じなんでしょうか。

>今後も楽しい文章、楽しみにしております。

ありがとうございます。拙いサイトですが、今後もどうぞお立ち寄りください。

投稿: TARO | 2012年5月18日 (金) 11:55

今日ラジオでバート・バカラックの曲がかかっていて、当時私の中では双璧をなしていた作曲家ジム・ウェッブを思い出しました。
で、何となく検索をかけたらここにたどり着きました。
最高傑作はやはりリチャードハリスの歌うマッカーサーパークですね。
アレンジもすばらしく大変ドラマチックで間奏の変拍子の使い方もすばらしかった事を思い出します。
当時(高校生)触発されて「公園」という曲を作ったことを今でも思い出します。

「君との想い出のこの公園に何となく来てみたが、あの時のような生き生きとした草木(くさき)の姿はなかった・・
(から始まりthere will be another song...の部分が)
びっこ(今では差別用語らしいですがごめんなさい)の子犬が一匹通り過ぎてゆく・・」

なぜかマッカーサーパークを聞くとオーバーラップします。
探せば当時のスコアなど有ると思いますが、スタイルは完全に同じでしたね。
作曲家を目指していましたが、結局ダメダメのまま還暦をすぎてしまいました。
だらだらと書いて申し訳ありません。
またセンチになってしまいました。
それでは失礼致します・・・

投稿: 通りすがり | 2012年9月27日 (木) 17:29

通りすがりさん、こんにちは。
体調を崩していて、レスが遅れました。失礼いたしました。

「マッカーサー・パーク」に限ったことではないですが、ジム・ウェッブの曲って全然古くならないですよね。ウェッブがビリー・ジョエルやグレン・キャンベル、マイケル・マクドナルドらと自作のヒット・ナンバーをデュエットした2年前のアルバムを最近になって聞いたんですが(ジャスト・アクロス・ザ・リヴァー)、やはり素晴らしい曲の数々だとあらためて感銘を受けました。なぜか「マッカーサー・パーク」は含まれてないんですけど。

投稿: TARO | 2012年10月 3日 (水) 22:42

アンデー・ウイリアムスが亡くなり、久しぶりにCDを聴いていたら懐かしい「マッカーサー・パーク」が流れてきました。この曲を聞いたのは学生時代。(私の年もばれますね。)大好きなフォー・トップスが歌っていてメロデイーの美しさ、スケールの大きさに惹かれ随分聞き込んだものです。今は亡き主人が高校の吹奏楽部の顧問の時、私が選曲し主人が編曲、当時私が顧問だった体操部の生徒が定期演奏会で踊った思い出の曲でもあります。当時は独身で互いに少し意識し合っていた頃。懐かしく、とても思いで深い曲です。中間部のスローで甘く美しいコーラス部分が特に好きでした。こちらで名盤として大変詳しく紹介されていて、長年抱いていたこの曲の持つ不思議な魅力がわかった気きがしました。私もこの曲を聴くと少しセンチになります・・・。ありがとうございました。

投稿: 越後ひめさゆり | 2012年10月14日 (日) 18:38

越後ひめさゆりさん、はじめまして

アンディ・ウイリアムスが亡くなったのには、驚きました。
もう84歳になってたんですね。膀胱癌を患ってたなんて全然知りませんでした。

それにしても「マッカーサー・パーク」がご主人との結婚前の想い出の曲とは、素敵すぎます・・・
(体操部の選手がこの曲で踊ったというのはビックリでした。)
フォー・トップスの「マッカーサー・パーク」は聞いたことがなかったので、YouTubeでさがして聞いてみました。これすごくいいですね。歌唱は勿論ですが、オーケストレーションも美しい。これを聞いて初めてドナ・サマーの解釈が突然変異的に出てきたわけじゃないということが、理解できました。

投稿: TARO | 2012年10月15日 (月) 23:07

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