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2012年5月20日 (日)

フィッシャー=ディースカウの名盤(1)賛否両論だったイタリア・オペラ

20120520_dfd 今日は仙台で「青葉まつり」という大きなお祭りがあったのですが、昨日は泊まりの仕事で、今朝帰宅。午前中遅くまで寝ていたので写真撮りに行けませんでした。華麗な時代行列と豪奢な山車が見もの・売り物なので、来年(可能でしたら)ご紹介します。

ところで昨日から突然アクセス数が増えました。フィッシャー=ディースカウの名前の検索で来られる方が多いようです。そこでフィッシャー=ディースカウの残した数多い名盤の中からこれはというものをご紹介していきたいと思います。

「これは」というものなのに、「賛否両論だった」ものから始めるというのも我ながらいかがなものかと思わなくもないのですが、それはともかく。
フィッシャー=ディースカウはオペラ・デビューがヴェルディの「ドン・カルロ」であることからも判るように、イタリア・オペラもレパートリーにしていました。もっとも彼のデビューはベルリン・ドイツ・オペラ(当時の名前はベルリン市立歌劇場)で、かなり遅くまでイタリア・オペラでもドイツ語上演していたようですから、これもドイツ語歌唱だったのだろうと思います。

実際ドイツ語によるイタリア・オペラやフランス・オペラの録音というのはかなりあって、フィッシャー=ディースカウもヴィントガッセンとの「オテロ」やヒルデ・ギューデン、ヴンダーリヒ共演の「椿姫」などの録音に参加しています。
私の手元には70年代にバイエルン国立歌劇場で上演されたディースカウ主演、サヴァリッシュ指揮の「ファルスタッフ」のテープがあるんですが、この時期のミュンヘンですらやはりドイツ語上演です。

でまあこの手のドイツ語によるイタリア・オペラは全然問題ありません。問題はイタリア語によるイタリア・オペラです。

フィッシャー=ディースカウのイタリア・オペラを嫌う人がその理由として「これはイタリア・オペラじゃない」と感じているというのは非常によく判ります。理知的な歌唱で、微に入り細を穿った歌唱に違和感は確かに感じます。イタリア・オペラってもっと感情をダイレクトにぶつけるものじゃないの?という意見ももっともな気がします。
しかし一方で彼の発声も様式もテクニックも、なんの問題もない。むしろベルカントそのものではないのかという意見もあります。私にはよく判りませんが。

いずれにせよ彼のイタリア・オペラ関係の録音の中で、それほど「否」はなく、賞賛の方が多そうなのは以下の3つ。

まずひとつはイタリア・オペラの名テノールだったカルロ・ベルゴンツィとの二重唱集。二人は同世代で(ベルゴンツィが一つ年上)気があうのでしょうか。全曲盤のレコーディングでも顔をあわせてますし、異色なようで実は異色じゃないんですね。全曲からの抜粋ではなく、わざわざセッションを組んで録音しています。
「運命の力」「ラ・ジョコンダ」「シチリアの晩鐘」「真珠採り」「ボエーム」「オテロ」「ドン・カルロ」からの二重唱で、ベルゴンツィの全曲録音のないレパートリーからも選曲されてるのが嬉しいところです。
イタリア・オペラに限ったことではないのですが、フィッシャー=ディースカウの歌は全曲盤で聞くとどうしても、役と言うよりは歌手が前に出てくる印象なのですが、アリア集やデュエット集では歌手そのものに焦点をあてて聞くので、その手の弊害はありません。

ガルデッリ指揮のヴェルディの「マクベス」は、アバド盤が出現するまでは、この曲の定番でした。フィッシャー=ディースカウはマクベス役。マクベス夫人がスリオティスですし、脇もパヴァロッティ、ギャウロフなど豪華な面々で素晴らしい録音と言えるのではないかと思います。フィッシャー=ディースカウの「マクベス」には他にバンブリー共演、サヴァリッシュ指揮のウィーン・ライヴもあるようですが、私は聞いたことがありません。↓です。

最近は忘れられてる感じですが、バーンスタイン指揮の「ファルスタッフ」(ファルスタッフ役)も、発売時は絶賛されました。この「ファルスタッフ」はバーンスタインがヴィスコンティの新演出でウィーン国立歌劇場にデビューしてセンセーションを巻き起こし、あらためてセッション録音されたものですが、Decca専属のウィーン・フィルを使うために、CBSとデッカとの間でバーターが行われ、CBSがこの「ファルスタッフ」を、デッカが「大地の歌」とモーツァルトの録音を選びました。「大地の歌」が今も最高の名盤としての評価を失っていないことを考えると(当然いまも売れているのであろうと推測できます)、結局はデッカの方が得したのでしょうか?

「マクベス」も「ファルスタッフ」も随分昔に聞いて以来聞き直してないのですが、まず間違いのないところかと思います。

では賛否両論だったもの。

クーベリック指揮の「リゴレット」(リゴレット)。
ショルティ指揮の「ドン・カルロ」(ロドリーゴ)。
この2つはベルゴンツィ共演ですが、特に後者は得意の役であり、そんなには否定的評価はなかったように記憶しています。「リゴレット」は私は抜粋しか聞いてませんが、どうなんでしょう?という感じ。

一番論議を読んだのはこれでしょう。

マゼール指揮の「トスカ」(スカルピア)。
フィッシャー=ディースカウのスカルピアが知的なアプローチで、しかも表現力全開で役作りしてるであろうことは、聞かなくても想像がつくかと思います。
まあそれだけなら想定範囲なのですが、ここではトスカがニルソンなのです。そこで起きるのは絶対にプッチーニでないことは確実ですが、とてつもない高いレヴェルでのオペラの世界が実現してることも確かです。

フィッシャー=ディースカウにはこの他に、
バルビローリ指揮の「オテロ」。
マゼール指揮の「椿姫」。
などの録音もあります。これらも賛否両論だったように記憶してますが、私自身は聞いてないのでよく判りません。

――以上書いては見ましたが、なんか頭から「賛否両論の」というのはやはり盛り上がらないような気がするので、次回は「絶対的価値を持つかけがえのない名盤」を。

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コメント

トスカは下のものを聞くと,とてもドラマティックでよいと良いと思いました。
http://www.youtube.com/watch?v=24Wm6X0sQ6A

ファルスタッフは違和感はありませんが、山の築き方が全く違いますね。
http://www.youtube.com/watch?v=VfpA0a1jeNY

ドンカルロスはフランス語であれドイツ語であれ雰囲気が其々ですね。
http://www.youtube.com/watch?v=0t-I71fkqcY
http://www.youtube.com/watch?v=fyMyTNnQjZY&feature=relmfu

しかしリゴレットとなるとどうでしょうか?
http://www.youtube.com/watch?v=5umMyOlonl0

投稿: pfaelzerwein | 2012年5月21日 (月) 02:07

pfaelzerweinさん

YouTubeのリンク、ありがとうございます。すっかり夢中になって聞き入ってしまいました。
特に日本公演の「ファルスタッフ」!映像の存在自体は前にeuridiceさんのサイトで教えて頂いてたんですが、これを舞台でご覧になった人たちが本当にうらやましい。私はこの頃はまだ高校生、この時のベルリン・ドイツ・オペラ来日公演での「ローエングリン」が初めて見たオペラの舞台中継というくらいで、東京までオペラを見に行こうなどとは考えもしませんでした。

ニルソンとのトスカもあらためて聞くとやはり凄いですね。ふたりともドラマティックで気品もあって、ベーム盤の「ドン・ジョヴァンニ」大詰めの二人を彷彿とさせるような。私の好きなカバリエのトスカもYouTubeに上がってたので、ついそちらもクリックしてしまいましたが、ポンスの声が流れた瞬間に南欧の暖かい風がふわっと吹き込んでくるようで、ニルソン&FD組との雰囲気の違いに驚いてしまいました。

「リゴレット」はいつもジュリーニ盤のカップチッリの歌を聞き慣れていると、まるで違う曲のように聞こえます。最近の読み替え演出で、大学教授のリゴレットとかならぴったり合うかも。

投稿: TARO | 2012年5月21日 (月) 11:59

オルフェオ録音のベルゴンツィとの二重唱集は私もLPで愛聴してました。
2人とも往年の声はなくても、張りのあるスタイルは素晴らしかった。

クーベリック盤でのリゴレット、ショルティ盤でのロドリーゴはヴェルディ歌唱としても個性的で秀逸と思え好きですし、共演者含め優れたヴェルディ録音と思います。
マクベス、ファルスタッフも素晴らしい。
マゼール指揮「トラヴィアータ」とバルビローリ指揮「オテロ」は、大変ユニークなキワモノ・ヴェルディ演奏として個人的には大好きな2点です。

彼の「トスカ」録音はリンクで初めて聞きましたが、ニルソン共々素晴らしいじゃないですか!
指揮も歌もベタベタしたとこが皆無で「トスカ」苦手の私には凛とした理想的演奏かも。
F-Dが当然エロ親父臭皆無なのも明るく笑えます。

投稿: 助六 | 2012年5月21日 (月) 12:56

助六さん

ふう~む。マゼールの「トラヴィアータ」とバルビローリの「オテロ」、けっこう面白いのでしょうか。
「大変ユニークな」と「ヴェルディ演奏」という言葉の間に『キワモノ』という一語が入ってるのが、少々気になりますが、特に「オテロ」は確か高崎さんあたりの評価が最悪で、気にもとめずにスルーしてしまいました。でもよく考えてみると劇場で「オテロ」を上演する時に、マックラッケン、ジョーンズ、フィッシャー=ディースカウだったら絶対見に行きますよね。ましてバルビローリ指揮だったら歌手なんか誰でも行くはず。

>「トスカ」

ニルソンが、実に素晴らしいんですよね。氷のような冷たい歌姫ですが、FDともども高貴な感じを保ったまま盛り上がっていくのがぞくぞくさせられます。

投稿: TARO | 2012年5月21日 (月) 21:04

検索ランキングはさすがにFDずくめですね。
そう言えば、ランキングにいつまで経っても定期的にワイセンベルクが現れるのにも驚いています。根強く心を捉えるものがある人なんですね。

それで「トラヴィアータ」で「キワモノ」なのはもちろんマゼールで、私は彼の曲者演奏は大好きですが、この若いときの指揮は軽薄な表層効果が多いのも事実でしょう。下に張っておくリンクではLibiamo以外はあまり目立ちませんが。
でも私はFD共々ヴェルディの譜面を裏から透かし見せてくれるようなとこが大好きですね。
ローレンガーとアラガルは驚くようなものではないし、前者のヴィブラートがちょっと耳につきますが、2人とも素直で直截な歌唱に好感が持てます。

http://www.youtube.com/watch?v=BPqXo4kq8SA (Dite alla giovine)
http://www.youtube.com/watch?v=PjhcAlx_GJc (Di Provenza il mar)
http://www.youtube.com/watch?v=uC8hA39siBs (Addio al passato)
http://www.youtube.com/watch?v=kxlzBdeU6r0 (Libiamo)

「オテロ」の「キワモノ」はマックラケン。オテロを歌うには声が付いて行かないとこがあるし、アクの強い発声と表情は辛い部分もあり、まあ「malcanto」の典型でしょう。
ジョーンズのデズデモナは「ちょっと違う」けれど大変輝かしく美しい歌唱と思います。
彼女は70年くらいまではヴェルディをよく歌っていて、日本デビューもNHKイタリア・オペラの「ドン・カルロ」でしたね。
バルビローリの指揮はダイナミックもフレージングもやっぱり「ちょっと違う」んですけど、彼のこの譜面に対する愛情がヒタヒタと伝わってくるような慈しみが素敵です。推進力にやや欠けるところは聴く人によって長所とも短所とも感じられると思います。

http://www.arkivmusic.com/classical/album.jsp?album_id=69468

投稿: 助六 | 2012年5月23日 (水) 09:50

助六さん

「椿姫」と「オテロ」の音源、探して下さりありがとうございます。
驚きました、グィネス・ジョーンズ!声も歌も素晴らしいですね。
フィッシャー=ディースカウのイヤーゴもチラッとしか聞けませんが、抜群にいいような。
もしかしてこのバルビローリ盤、明らかに「買い」だったんですね。。。。。どっちみちオテロ役にはあまり興味が無いので、すこしぐらいへたれててもOKですし。
(実は先に椿姫を聞いて、ローレンガーもなかなか良いんだなあなんて思ってたんですが、オテロのジョーンズを聞いて印象がどっかにいっちゃいました。)

ジェルモンも凄く上手いですが、でもちょっと「上手い」という言葉が先に来ちゃうような感じはありました。もっともフィッシャー=ディースカウの後にカップッチッリを聞いたら、カプ様の歌がなんだか恣意的に聞こえてきて困りましたけど。

>ランキングにいつまで経っても定期的にワイセンベルクが現れるのにも驚いています。根強く心を捉えるものがある人なんですね。

実は私も同じ事を思ってました。意外でしたが、なるほどという気もします。

投稿: TARO | 2012年5月23日 (水) 22:42

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