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2012年6月 8日 (金)

フィッシャー=ディースカウの名盤(5)絶唱 & 珍しいレパートリー

20120608_dfd FDの名盤、最後はその他の作品。まずフィッシャー=ディースカウの長いオペラ歌手としてのキャリアの中でも、最後期の絶唱とでも形容すべき歌をとりあげたいと思います。

ライマンの歌劇「リア王」

1978年にミュンヘンで初演されたアリベルト・ライマンの新作歌劇「リア王」は、グラモフォンによってライヴ・レコーディングされましたので、現代オペラの中では例外的に多くの人に聞かれてるのではないかと思います。(30年以上前の作品を現代オペラと言ってよいかどうかはともかく。)

この作品の成功はもちろんフィッシャー=ディースカウあってのものですが、そもそも彼は作品の企画段階からかかわっていたようで、CDのライナーによれば自ら作曲者にシェイクスピアの「リア王」オペラ化を提案したようです。当然リアの役はフィッシャー=ディースカウを前提に書かれました。

ライマンの曲をフィッシャー=ディースカウは高く評価してるようで、コンサートで歌曲も取り上げていますし、バリトンと合唱のための「ヌンク・ディミティス」やバリトンと弦楽四重奏のための「秘めたる思い」なども歌っています。
またライマンはフィッシャー=ディースカウの歌曲リサイタルのピアノ伴奏者としても有名で、CDもいくつか出ています。もっともハルトムート・ヘルとやるときは、シューベルト、シューマン、ヴォルフなど王道のレパートリーが多かったのに対して、ライマンを伴奏者に選ぶときは、20世紀作品や、19世紀作品でもニーチェ作曲の歌曲のCDだの、デーメルの詩による歌曲の夕べだのと、かなり凝った曲目になることが多かったようです。

そんな相性の良かったと思えるライマン作品で、しかもあの超人的な声楽的能力の持ち主なのに、それでもこのオペラはかなりの難物だったようです。
「私は仰天した。初めの初めからアカペラだったからである」「響の土台に四分音を始終奏でているオーケストラの前に出るのが、怖かった」などと、ディースカウは語っています。

しかし努力のかいあって、なのかどうか判りませんが、実際にCDで聞ける音楽はオケ部分も含めて実に面白く、素晴らしい作品に仕上がっています(これはFDと共に3人の姉妹を歌うデルネッシュ、コレット・ロランド、ヴァラディの名唱も寄与してるのですが)。全編聞きものですが、中でもオペラのラスト。10分に及ぶリアの独白(中間部に若干他の人物の声が入りますが)での、なにもかもが暗黒の虚無の中に沈み込んでいくような音楽は、いやおうなく深い感動を呼びます。

プフィッツナーの歌劇「パレストリーナ」

プフィッツナーのこのオペラは私は舞台でも映像でも見たことがありません。日本はもちろんドイツ語圏以外で上演されることはかなりまれなのではないかと思いますが、ドイツ・オーストリアではしばしば取り上げられてるようです。最近だと90年代にベルリン・ドイツ・オペラでテーィーレマンが振った上演は話題になりましたし、99年にウィーン国立歌劇場でペーター・シュナイダー指揮、トマス・モザーやユリアーネ・バンゼの出演で出された舞台も評判になりました。3年ほど前にバイエルン国立歌劇場がシモーネ・ヤング指揮で上演した舞台はDVDになっているようです。私はこのオペラの音楽は非常に美しいと思うのですが、どうして独墺圏でしかやられないのか、不思議です。色恋沙汰がないからでしょうか?

フィッシャー=ディースカウが出演しているのは、クーベリック指揮のDG盤。主役のパレストリーナはテノールの役でニコライ・ゲッダが歌い、フィッシャー=ディースカウは脇役にまわっています。
ところがこの脇役というか準主役というか、彼が演じているボロメオ枢機卿というのが実に微妙な役で、いまここでストーリーを詳述するわけにはいかないので(そのうち『オペラのあらすじ』ででも)ちゃんと書けませんが、フィッシャー=ディースカウの絶妙な歌唱を必要とする役なのです。1幕の長大なモノローグは表現力全開です。

サヴァリッシュ&ベルリン・フィル・ゾリステンとのフォーレ、プーランク、ラヴェル

おしまいにFDとしては珍しいレパートリーを。1975年9月にフィッシャー=ディースカウはベルリン・フィル・ゾリステン及びピアニストとして加わったサヴァリッシュとともに、フランスものを集めた演奏会を開きました。
曲目はフォーレの「優しい歌」の室内楽伴奏版、プーランクの「仮面舞踏会」、ラヴェルの「マダガスカルの歌」。このコンサートはNHK-FMでもライヴが放送されましたが、さらにその成功を受けてレコード録音も行われました。フィッシャー=ディースカウの数少ないフレンチ・レパートリーを代表する1枚になっています。でもけしからんことに今は廃盤みたいです。

「優しい歌」は私はこの時のFM放送ではじめて室内楽版があることを知りました。いまは室内楽版もフランソワ・ル・ルーによる、いわば本場物のCDがありますがずいぶん長いこと、求められるものはこのFD盤だけでした。まあこれがフォーレとして「名盤」かどうかというと疑問はあって、ル・ルーが本筋でしょうけれど、でもこれはこれで魅力がないわけではありません。

ラヴェルの「マダガスカルの歌」は名演ではないかと思います。本人も得意のレパートリーなのかも知れません。この録音の他にグラモフォンにもフランスものの録音があって、そこでも歌っています(私はこっちは聞いたことがありません)。ちなみにこのDGの「マダガスカルの歌」には、フィッシャー=ディースカウの最初の奥さんであるチェロ奏者のイルムガルト・ポッペンが共演しています。(おしまい)

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コメント

このシリーズおしまいですか?

ライマンの「リア」は、ドレースデンで舞台を観たことがあります。DFDのLPを聴いて予習していたので、音楽面ではもの足りませんでした。

YouTubeには、再演(1982年)の映像がいくつかアップされているようです。最終場面は↓

http://www.youtube.com/watch?v=sZ5srOEgJFQ

そういえば、今年、日生劇場でライマンの「メデア」を上演するようです(5千円の席を確保しておきました)。来年は、「リア」のようです。

プフィッツナーの「パレストリーナ」も、ヴィーンSOで観たことがあります。しかし、この演目は、歌手がたくさん必要ですので、コストがかかると思います。ヴィーンで観たときも、空席が多かったので、何度も上演はできないと思いました。

最近、DFDのバッハの録音を聴いています。
・EMIのバッハ/カンタータ・アリア集(フォルスター指揮、58年録音、他)
リヒターとの「マタイ」を録音する直前です。DFDが素晴らしいのは当然ですが、シュヴァルベのヴィオリンの音に聴き惚れてしまいました。ニコレ、コッホらも参加しています。
・Auditeの「RIASバッハ・カンタータ集」9枚組
1950年前後の録音です。ホイットンの本にも、この放送のことが書いてありました。
・ヘンスラー「バッハを歌う」
1950年代、シュトゥットガルトでの録音。

ここ↓は、割と安いかもしれません。

http://www.prestoclassical.co.uk/

投稿: ももんが | 2012年6月10日 (日) 21:04

ももんがさん

ギョギョッ・・・「リア王」のラストシーンって、ミュンヘンはこんな舞台だったんですか。音楽からイメージしてたのと全然違う…。コーディリアを抱いて(というか引きずって)リアが登場するところなんか、不気味すぎて少々あせってしまいました。

それはそれとして秋の日生劇場の「メデア」は面白そうですね。ちょっと行きたい気が(どうも健康状態がいまひとつで11月にどうなってるか判りませんけども)。「リア王」は配役次第でしょうか。それにしてもFDと比べられるのでは、誰にとっても辛いでしょうねえ…。日本でライマンのオペラを見に行こうというくらいの人だったら、ほぼ確実にこのDG盤は聞いてるでしょうし。

「パレストリーナ」、ウィーンの上演をご覧になってたんですね。いまクーベリック盤の配役表を数えてみましたが延べ42人の歌い手の名前が載ってました。42人もソリストが必要で、なおかつ客席が埋まらないのでは、どんなに音楽が良くても上演されないですかねえ…

1950年前後に録音されたバッハというのがあったんですか。知りませんでした。さぞ良い声かと。
(このサイト日本円表記なんですね。最初4桁の数字なので――ドル・ユーロではありえない値段なので――何かの記号・番号かと勘違いしてしまいました。値段はどこに書いてあるんだろうと思って、よく見たら・・・)

フィッシャー=ディースカウの特に歌曲はすべて名盤とも言えるので、拾って行ったらきりがなく、とりあえずはこんなところでおしまいにしようかなと。ベームとの「亡き子」などは私にとってはとても思い入れのあるレコードなので、いずれ『思い出の名盤』シリーズでももう一度と考えています。

投稿: TARO | 2012年6月10日 (日) 22:58

「リア王」は一時期大変評判になりましたね。

私は82年にガルニエで見たことがあります。
何と仏語上演。リアはゴットリープという人、指揮はオーストリアのフリーデマン・ライヤー、演出は後にコメディー・フランセーズ総裁になるジャック・ラサルでした。

予想されたことながら仏語だと表現性が薄まっちゃうし、歌唱共々FD盤に比べて何だか作品が3分の1くらいに縮んじゃった感じでしたわ。
この頃のオペラ座オケはどん底でしたしね。
ガックリ。

投稿: 助六 | 2012年6月11日 (月) 08:00

助六さん

ガルニエで「リア王」って雰囲気だけはぴったりな感じですが、あの曲をフランス語のやわらかな響きでというのは、う~ん、考えただけで台無しになりそうです。でも82年などという段階で、なんとも不思議なことを…。リア王の話ですし、原語上演で何も不都合がなかったと思いますが、指揮者か演出家に何か思うところがあったんでしょうかね。

>この頃のオペラ座オケはどん底でしたしね。

ショルティが振ってた時代と、バスティーユに移る間のちょうど谷底の時期だったんでしょうか。それは残念でした。この曲はオーケストラがうまくなかったら全然ですもんね。
歌手もどうしてもDG盤と比べちゃいますし…。(ゲルネがレパートリーにしてるようですが、彼なら是非とも聞いてみたいです。)

投稿: TARO | 2012年6月11日 (月) 13:41

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