« 神の宇宙 | トップページ | 運が良いとか悪いとか(続き) »

2014年2月 5日 (水)

運が良いとか悪いとか

20140205_albrecht 昨日のニュースになりますが、指揮者ゲルト・アルブレヒトが亡くなったそうです。日本では読響の指揮者としておなじみかと思いますが、90年代にはチェコ・フィルが初めて迎えたチェコ人以外の首席指揮者としても話題を呼びました。

華やかな経歴のアバドと違って、地味な存在ではありましたが実力者だったと思います。ミュンヘンで聞いたチャイコフスキーの「オルレアンの少女」など、W・マイアーの名演ともあいまって忘れがたく記憶に残っています。

(写真はWikipediaドイツ語版より)

***

ところで完全無欠の無神論者にして、100%の無宗教である私は、もちろん「運」などというものは信じません。すべては偶然のたまものだったり、必然の結果 だったりするので、運命の力などというものに左右されてるのではない、と断言したい--と思うのです。思うのですが…

当然「運が良かった」とか「運が悪かった」とかいう言葉には無縁であるべきですが、それでも時には「運がわるいなあ…」と呟きたくなることは、多々あるのです。なにしろ私は宝くじはおろか、どんな小さな懸賞にもほとんど当選したことがないんです。

「運命」とか「宿命」とか大げさな言葉はともかくとして、「運の良し悪し」程度の話で人生全体を見ると、どちらかと言えば、私は運の良い方でしょう。もしかするとどちらかと言わなくても、相当に運勢に恵まれている方だったと言っても良いかもしれません。子供の頃はなにも考えずに好きなことばかりやってたのに、うまいぐあいに希望の高校にも大学にも入れましたし、たまたまコネがあって希望の業種に就職することも出来ました。フリーになってからも昔の会社をクライアントにできてて、これで運が悪いなんて言ったら罰が当たります(もちろん私は天罰などというものは信じませんけど。そんなものがあるのなら、世の中権力者にこんなにクズが多いなんてことに、なろうはずがありません)。

でも書いたように懸賞に当選するとか、クジに当たるとか、そういう小さな 「運」には見事なほど縁がないのです。なにしろ私はその類のものには、60年間で3回しか当選したことがありません。1回は映画の招待券、もう1回はコンビニのグッズで、残り1つはクレジット・カードのキャンペーン。最後のは使った額のキャッシュバック(5000円)というもので、少しましですが後はなんかねぇ…

そんな私ですから、当然昨年の松島ルツェルンのアバドとルツェルン祝祭管のコンサート、抽選申し込みに応募したものの、当たるわけ無いと思っていました。たった500席のコンサートです。こんな競争率の高そうなものに、常日頃「運の悪い」私があたったら、そ のほうがおかしいと。なので当然そちらの方は、半ばあきらめて、サントリーのチケットを入手しておきました。

20140205_lucern ところが! 当たっちゃったのです。もしかすると地元優先だったのかもしれませんが、それにしてもなんという幸運。今まで小さな運に見放され続けてきた私ですが、これはきっと「運勢」を貯めておいたのです。運をちまちま使わなかった分、今ここぞという瞬間に使うことが出来たのに違いない。

コンサート時間が一時間というのがちょっと気になりましたが、サントリーの演奏会も聞けるし、とりあえず私は自分の運の良さに感謝しつつ、有頂天の毎日を過ごしていました。

そんなある日の朝、私はいつものようにヘッドフォンをして音楽を聞きながら、仕事に取り掛かろうとしました。するとヘッドフォンから流れてくる音楽が変なのです。全体のバランスが右に寄ってるし、音質も逆相でつないだような中域抜けの変な音でした。接触不良かと思って調べてみましたがそんなこともなく、どうも故障したらしいということがわかりました。

その日の夕方ヨドバシ・カメラに新しいヘッドフォンを買いに行き、製品を視聴してみて愕然としました。全部、同じ中抜け・右寄りの音だったのです。悪いのはヘッドフォンじゃなくて私の左耳だったのでした。

翌日、耳鼻科に行くと「突発性難聴」の疑いがあるので、国立病院に行って検査を受けるべしとのこと。しかも医者はこんな恐ろしいことを言うのです。「難病ですから。放っておくと聞こえなくなります」

聴こえなくなるって…私が最初に思ったのは「たとえ聴こえなくなるにしても、せめて松島まで待ってくれ!」ということでした。どうせアバドが来日するのもこれが最後でしょう。耳が聴こえなくなるにしても、アバドのコンサートが聞き納めなら、本望というもの。しかしコンサートの1ヶ月半も前です。なんという運の悪さ!せめて病気になるのが半年後だったなら・・・

突発性難聴という病気は、浜崎あゆみやスガシカオがかかったことで世間に周知されるようになったらしいのですが、厚労省指定の難病です。原因はわかっていません。一週間以内に治療すると、完治する可能性はかなり高くなるそうですが、それでも70%程度らしいのです。

ベー トーヴェン気分で国立病院(正確には国立病院機構・仙台医療センター。長たらしい!)に行った所、診断は果たして突発性難聴。点滴でステロイドを体に流しこむという治療を続け、とりあえずはある程度の聴力の回復は出来ました。ただ周波数特性がメチャクチャで、特に低音が聞こえ難く高域寄りの変な音に聞こえます。日常生活に不便はありませんが、音楽はちゃんと聞けません。でもまあある程度回復しただけでも、私は運が良いというものではないでしょうか。浜崎は駄目だったらしいですし。

そうこうするうちにカジモトから松島のプログラムが発表されました。コンサート前半はオーケストラ・メンバーによるブラームスの弦楽六重奏曲第1番(映画「恋人たち」につかわれて有名な方)、後半はシューベルト「未完成」というもの。 なんだこの変なプロは!たった1時間のコンサートというだけで疑問なのに、その半分は室内楽。おまけに「未完成」で終わるって。

チケット料金は全席8000円なので、サントリーのコンサートに比べると安いわけですが、いくら安くても未完成1曲で8000円・・・たまたまサントリーの券も押さえていたから、いいようなもののこれって何なんでしょうか?運が悪い。あ、いや、サントリーを確保していたのは、運が良いのか。もうなんだか自分で もよくわかりません。

やがて耳の調子が急に良くなりました。その頃には点滴ではなく錠剤のステロイドを飲用するという治療に変わっていたのですが、突然、いままで聞こえなかった電車の走行音が聞こえるようになったのです。周波数特性は相変わらず左右バラバラなのですが、それでもかなりの改善。ヘッドフォンで音楽を聞いてみると、ヴォーカルなどはかなりまともに聞こえます。やはり私は運が良かったのであろうか、と再び希望を取り戻したと思ったら。

来日中止のニュースです。オー・マイ・ガッ!!!いや、無神論者の私には、神を呪うことすら出来ません。カジモトから案内があり、プログラムを室内楽2曲に変更し、チケット料金8000円は払い戻し。この室内楽演奏会は無料招待にするとのこと。なん というかこう・・・「落胆」などいう言葉では言い表せないのですが、どうせこの日の予定は空けていたので、室内楽演奏会も聞くことにしました。ブラームス ともう1曲はチャイコフスキーの「フィレンツェの思い出」。
(続く)

|

« 神の宇宙 | トップページ | 運が良いとか悪いとか(続き) »

コメント

久しぶりです。
TAROさんも
>突発性難聴
でしたか!私も
一昨年、突然聞こえ方がおかしくなって、
突発性難聴は少しでも早い治療が必要と何故か知っていて、
耳鼻科に駆けつけました。
それでも完治は1/3、1/3は後遺症有り、1/3は全然治らないと言われました。
幸運の1/3に当たったようですが、以前と比べればなんとなく音楽からは遠ざかってしまいました。

突発性難聴のときは、高音が抜けちゃう、つまり聞こえなかったです。
夕方、携帯電話で相手の言っていることがよくわからなかったというのが初めでした。
駅だったので騒音のせいかとその時は思いましたが、翌朝、音楽(オペラのアリア)を聴いてみて
これは絶対変と確信、医者に直行しましたから、12時間以内の受診というわけです。

TAROさんは完治とはいかなかったんですね・・私もあまり聴かなくなったのは
多少後遺症があるのかもしれません--;;

投稿: edc | 2014年2月 7日 (金) 09:36

euridiceさん、お久しぶりです。

なんとまあ、euridiceさんも突発性難聴になられたとは。
でも幸運の1/3で良かったですね。私はこの記事には書いてませんでしたが、松島のコンサートの後に、もう一段階聞こえ方が改善されました。この時も電車の走行音で気づいたんですが、突然低音域が聞こえて来るようになったんです。

検査の結果は左右とも全く同じ周波数特性で、寸分たがわずぴったり重なってることに驚きました。ただ残念なことに私は耳鳴りが残ってしまいました。普段生活する時は大丈夫なんですが、静かな場所や集中するとかなりうるさいです。音楽を聞く時は静かな場所で、しかも集中するので、最悪の条件です。いまFMで放送してるアルゲリッチとマイスキーのライヴを聞きながら書いてますが、蝉の音が終始重なってます…

投稿: TARO | 2014年2月 7日 (金) 19:56

G・アルブレヒトの実演には私は一度も触れるチャンスに恵まれませんでしたが、何と言ってもシュレカーの一連の録音に大変世話になり、親しみがあります。「はるかなる響き」「宝探し人」はアルブレヒトの録音で知りました。「はるかなる響き」の録音は特に何度も聞いたし、ベルリンに見に行った舞台上演はレパートリーの再々々演だったせいかさすがのギーレンさんの指揮もややふやけてて、アルブレヒト録音はギーレンより聞き劣りするわけではありませんでした。

>ミュンヘンで聞いたチャイコフスキーの「オルレアンの少女」

ああご覧になったんです(羨)。クプファー演出とマイヤー主演で注目された稀少演目プレミエでしたね。私はもちろん行けず残念でした。そう言えば私は「オルレアン」の舞台上演は一度も経験できないままです。独語上演でしたっけ?

私も抽選には運がない方ですが、中高時代、民放ラジオで日曜夜12時頃にやっていた「新日鉄コンサート」という一般向けのクラシック1時間番組があって、それでシルヴィア・シャーシュの色紙やシュライヤーとラゴズニックのギター伴「水車小屋」のLPをもらったことがあって嬉しくかつありがたかったです。シャーシュのサインはハンガリー=アジア式に「シャーシュ・シルヴィア」となってたのも何か親しみを覚えました。日曜夜遅くのクラシックAM放送なんか聴いて抽選に応募する人は少なかったんでしょうね。
新日鉄は紀尾井ホールも開けたし、クラシックに熱心な方がいたんでしょうかね。

私の親は数年前ユーレイルパスのペア贈呈に当たってました。マイナーなネットサイトの抽選は割と当たるみたいですね。今はユーレイルは追加料金や座席数制限なんかで効用はまるで薄れてしまいましたが。

一昨年の秋バルセロナで人に引っ張られてディスコに行きました。ディスコに行ったなんて長年振り一生でも数度目だったんですが、行ってみればそれなりに楽しくまあ気分良く会場を出ました。
ところが翌朝左耳がおかしくなり、1時間半の滞在だったにも拘わらずディスコ難聴にやられました。最初は気のせいかなとも思い耳鼻科に行ったのはパリに戻った4日後でしたが、処方された経口薬で直ちにほぼ完治しました。18時頃医者にかかりすぐに薬局で処方薬を購入して服用、19時半開演のシャンゼリゼのケルビーニ「メデ」に恐る恐る出掛けたんですがすでに序曲の途中辺りで耳の栓塞感が晴れてきましたから効果は迅速です。

医者には回復後、同年代平均より聴力は高いと言われて安心し以来忘れかけてたんですが、1年ちょっと経った昨年11月に、階段を静かに昇っている時に突然再発、再び青くなって耳鼻科に急行、同じ治療ですぐに回復しました。
ところが!それから1カ月余の昨年末、軽い風邪を引いてリンパ腺の晴れで耳がおかしくなったものの今までもよくあることだったので余り心配しなかったのですが、数日経っても回復せず左耳は前と同じ悪夢の栓塞感に逆戻り。
耳鼻科医は「飛行機の気圧差原因と同じ」とのことで、今度は鼻腔噴霧薬を処方され数日後にほぼ完治しました。

3回に渡り聴覚障害を経験し、正にベートーヴェン・フォーレ・スメタナ気分、聴覚は微妙でその異常は世界認識を変え、言い知れぬ不安を引き起こすことを思い知らされました。
自分でも感じていたし普通のことだそうですが、左右で聴力に差があることも確認しました。
今も再発防止の耳洗浄薬を続けてますが、風邪ごときで再発した以上、加齢と共に不可逆障害を起こす可能性も除外できないと覚悟を決めて心理的準備をした方がよいかなと考えてます。
でもこうして音楽聞く楽しみが無くなったら、あまり生きてる意味なくなっちゃうなと思ったのも事実ですね。

バルセロナ熱は衰えず、その後も春秋年2回訪れてます。今春も行きたいとは思ってますが。

投稿: 助六 | 2014年2月 8日 (土) 10:13

助六さん

なんと助六さんも耳の病気をお持ちとは!やはり最初に思いますよね、「音楽が聞けなくなる」と。

でも風邪はまだ判りますが、階段を上ってる時というのが不思議ですね。さすがに階段ぐらいで気圧の変化は関係ないでしょうし。なにか自分では気づかない微妙な体調の変化があったんでしょうか。
突発性難聴の唯一の救いは、基本的に再発はしないということなんです。このためウイルスが原因で免疫ができるからじゃないかという見方もあるんですが、はっきりとは分かっていません。原因不明のまま治療法(ステロイド)だけは確立しています。

「オルレアンの少女」はたしか、ドイツ語上演だったかと思います(最近記憶がどんどん…)。マイアーが走ったり転んたり飛び降りたりの激しい動きをこなしつつも、まったく歌も乱れず、疲れも見せないという驚きのパフォーマンスでした。

「新日鉄コンサート」は私も時々聞いてましたが、プレゼントとかあったんですね。近年になって、いくつか新日鉄コンサートのライヴ録音がCDで発売されるようになりましたね。ヘルマン・プライの2度めの来日の時だったか、「冬の旅」が放送され、とてつもなく感動的だったことを覚えています。CD化を待ち望んでいるんですけど。シュライヤーとラゴスニックの「水車屋」は仙台でもコンサート行われたので、聞きに行きました。

投稿: TARO | 2014年2月 8日 (土) 21:17

>自分では気づかない微妙な体調の変化

医者には「鼓膜がまだ脆弱という以外の説明はない。運動などは問題なし。日常生活で特に気をつける事項もないが、毎朝オリーヴ油を耳に補給するのは効果あり」とか言われました。

突発性の場合は再発がないんですね。ウイルス性と分かれば気味悪さは少し減少しそうな気もしますが。
私の場合もプレドニゾロンとアモキシシリンの錠剤を処方されましたからステロイドですね。

>マイアーが走ったり転んたり

彼女はなお08年でもバスティーユのワルリコウスキ演出のパルジファルで演技的負担の多い演出をこなしてました、昨夏のエクスのエレクトラでも往時の声はないですが、クリュテムネストラ役で抑制の効いたシェロー演出にぴたりとはまり込んで音楽的にも舞台的にも今でも存在感は大きいです。
彼女自身はレジーテアーターの行きすぎに批判的言辞も述べてるけれど、やっぱり80~00年代の演出中心型上演の重要な担い手でしたね。

>「冬の旅」が放送され、とてつもなく感動的

私はプライ晩年の90年代前半にパリのガヴォーで彼の「水車小屋」を聞いたことがあります。いやとてつもなく感動し、終演後は黙って一目散に家まで歩いて帰りました。
私はどちらと言われれば文句なくF=D派なんですが、FDであんなに感動したことはないし、あらゆるコンサートでも最も打たれたものの一つです。声の状態も大変よかったです。

投稿: 助六 | 2014年2月10日 (月) 08:48

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/71167/59078489

この記事へのトラックバック一覧です: 運が良いとか悪いとか:

« 神の宇宙 | トップページ | 運が良いとか悪いとか(続き) »